第25話 動く思惑と交錯する疑念
北陸地域は二年前の災害による爪痕が色濃く残る場所だ。
まだ建物も倒壊したままと復興も手つかずで地元に住んでいた者たちからは
『早く復興して元通りの生活がしたい』
と要求されているが海外や一部の者たちからは
『後世に語り継ぐためにもそのままにしておくべきだ』
との意見もある。萩原元帥としてはどちらか片方に味方することで現在の政治バランスが崩れることを恐れて手出し出来なかったが、ここに来てそのバランスを崩そうとも取れる行動に出た。その点も含めて、今回は未知数だらけなのだ。
「噂じゃ、上村少佐が経験したものより規模がすごいらしいな」
「そうなんですね。どれだけの人が犠牲になったんだろ…」
「さてな。そこまで考えていたらキリがない。にしても、仁科少将遅くないか?」
「確かに。集合時間になっても来ませんね」
集合は10時。時間厳守、決して遅れないようにと言っていた本人が30分も遅刻なんて何かあったのだろうか。
「俺、少し様子見てきましょうか?」
「ん…。いや、その必要はなさそうだぜ」
「遅れてすまない。少しトラブルがあってな」
トラブル。その言葉に不安になるが仁科さんの後ろにいる人を見て何となく察しがついた。萩原元帥とその側近?と思しき軍人が同行していた。
「いや、久しぶりというほど日も経ってないか。今回は君の働きに期待しているよ」
「ど、どうも。ありがたいお言葉感謝します」
「聞けば今回の任務は仁科少将と石崎大尉、上村少佐だそうだね。なんとも心持たないではないか。そう思って、私自ら少し優しさを見せてやろうと思ったのだよ。
彼…御園中将を同行させようとしたのだが仁科少将が頑なに拒否をするもので困ったものだよ、まったく」
「なるほど。そう言うことでしたか。だったら、俺もそれは反対ですね」
「ほぉ。君はたしか、よく噛みついてきた…」
「石崎智正です。ま、あんたにはどうでもいいことでしょうけどね。それよりも今回の任務はあくまで調査。あまり人員を割いて、目立つよりも少数で挑む方がいいと思うんですがねぇ」
「君はどう思うかね?」
まさか俺にここで聞いてくるとは。正直、俺も石崎さんに同意見だ。
でも、角を立たせないように言うにはどうしたらいいんだ。
「沈黙ということは宜しいということではないでしょうかね。元帥」
「い、いいえ! 今回は三人での行動を希望します。俺にとっても忘れられない出来事に関係するだけに調査も難航すると思いますのでご迷惑をおかけするわけにも!」
「よく言ったな…」
勢いで思わず言ってしまったことへの後悔が反動で来て、思わず真っ青になるが
「そうかね。なら、今回は三人での調査を認めよう。だが、援軍がいるときはいつでも言いたまえ」
あっさりと踵を返して帰ろうとする元帥に御園中将も慌てて後を追う。
最後の今回は、ということはこれからも介入してくるつもりということなのだろう。
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