第16話 背中を見守る者たち
子どもの成長は喜ばしいと誰もが思うことだろう。
だが、わたしはそうは思えなくなってしまった人間だ。
『俺は軍に入る。そして、取り戻すんだ!!』
まだ幼さすらあった少年の悲痛な決意が耳に焼き付いて離れない。
そして宣言通り少年は軍にやってきて、悲願達成へと一歩近づいた。
傍から見れば喜ばしいことなのかもしれないが、少年が進む先にあるのは間違いなく地獄だ。進めば進むほど精神が摩耗していくのは目に見えている。
「どうすればいいんだって顔してんな」
「当たり前です。まだ18歳の子が軍に来て、これから最前線に送られることになる。
大人として悩むのは当然です。それとも、石崎さんはそんなこと気にならないのですか?」
「気にならんな、全然。それはあの子が望んだ道だ。それに…」
「どうしてですか!!」
感情に身を任せ、思わず胸ぐらを掴みかかる。
そんなわたしを石崎さんは冷めた目で見つめるだけだ。
「話を最後まで聞け。おまえの悪いクセだ。人の話を最後まで聞かない。分かったら、その手を離してほしいものだね。 上官殿」
「くっ…」
階級はわたしが上なのだが、経験や年齢すべてにおいては向こうが上だ。
そのせいかわたしは石崎さんには頭が上がらない。
いや、わたしだけではない大半の軍人は彼に従うくらいに彼の影響力は大きいのだ。
「まったく。上官殿にはもう少し冷静さがほしいものだね」
「少将とは名ばかりのお飾りみたいなもんですよ。それで、さっきの続きってなんなんですか?」
「あぁ、そうだったな。まぁ、そうならないよう我々大人が全力を尽くせばいいだけだ。そうだろ?」
「それはそうですが……」
「分かってるよ。それがどれほど難しいのかってことも。だから、お前も頭を抱えている。なら、守り方を見直せばいいんじゃないのか?」
守り方を見直すとは…?
まったく、こういうときでも石崎さんには敵いそうにないな。自分の石頭ぶりに呆れを通り越して怒りすらあるほどだ。
「簡単なことだ。トップはあの子を利用して何かをやろうとしている。まずはそれを知ることから始めるんだよ。難しいかもしれないが上官殿ならいけるだろ」
「それはわたしにスパイ行為をしろということですか」
「そうだ。それこそ暗部らしくていいじゃないか。未来ある子を守るため、俺たち大人が汚れんでどうする」
冗談めかして笑ってはいるが目は本気だ。
彼が地獄へ歩もうとしてるのなら、わたしも覚悟を決めるしかないということか。
それが子を守ることに伴う責任というものなのだろう。
「分かりましたよ。ただし、困ったら頼らせてもらいますよ」
「どうぞ。上官殿に頼られるのは部下として嬉しい限りだ」
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