第17話 ここから始まる物語
軍服姿の自分に違和感を覚え、いつまでも鏡をみていると外から声がかかる。
正直、まだ人に見せたくない気持ちがつよい。が、制服なのでそうも言っていられない。覚悟を決めたことをこうも早く後悔することになるとは…。
心の中で愚痴を散々こぼしながら恐る恐る、みんなの前に出るのだった。
「ほぉ、よく似合ってるじゃないか。なぁ、上官殿もそう思うだろ」
「ん…。うん、よく似合ってると思う」
「まったく。感動で言葉もないってか、やれやれ」
「えっと…」
「石崎だ、石崎 智正。この中じゃ最年長のおじさんだ。これから、よろしくな」
そう言うと石崎さんは握手を求めてきた。
「よ、よろしくお願いします」
岩のようにゴツゴツとした手。
その手で力強く握手するのだから腕が折れたのではないかとすら思ったが幸い、折れていないようで安心した。
「はっはっはっ! このくらいで痛がっているようじゃ先が思いやられるなぁ。
ま、それだけ鍛えがいもあるのだが」
「ほどほどにしてあげてくださいね。入隊早々、訓練中のケガで入院なんて笑えませんよ」
「安心しろ。上官殿にそこまでしたら俺のクビが簡単に飛ぶ」
「じょ、上官? 俺がですか?」
「なんだ説明していなかったのか」
石崎さんがそう言いながら横目で仁科さんへ視線を送る。
咄嗟に気まずそうに視線を宙へ泳がせる。
「あー、えっと説明不足があったようだな。上村亮平くん、君の階級は少佐だ。
与えられた権限や身分を証明するものは引き出しに入ってるので確認しておくように」
「そして、俺の階級は大尉。つまり、ぼうやより下ってことだ」
入隊早々、少佐ってそんなことあるのか…。いや、当然異例のことだろう。
やっぱり、元帥はなにか考えがあって俺をここに置いているのは間違いなさそうだ。
「………色々、思うところはあるだろうがまずはみんなの顔と名前を覚えることを先にすることだな。考えるのはそのあとだ」
「石崎さん……」
「仁科少将は先にやるべき仕事があるはずだ。あとのことは部下の俺に任せてもらえますかね」
「分かった。では、石崎大尉。上村少佐のことよろしく頼む」
一礼をして、仁科さんは部屋を後にした。
その背を見つめる石崎さんの瞳はどこか遠くを見つめているようにも感じられた。
「で、これからやることは」
「引き出しにある資料の確認だな。軍の仕組みと与えられた権限をしっかり学んどけ。分からないことがあればいつでも質問しろ」
「りょ、了解です」
「まったく、上官殿が部下に気を遣って敬語とは似たもの同士だなぁ、まったく」
嬉しそうに石崎さんに誰に言うでもなく一人呟き、不器用に笑うのだった。
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