第3話 パンドラの箱
知ってはならないパンドラの箱というものがある。
神話ではパンドラ自身が望んで開けたとされる箱。
箱を開けた結果がどうなったのか…箱から解き放たれた悪や不幸、禍は世界に広がってしまった。
そして、箱の最後に残ったものが希望というお話だ。
パンドラのように望んで箱を開けた者もいれば、望まないまま結果として箱を開ける形になった者、果たしてどちらが多いのだろうか?
夕暮れのある日だった。太陽が傾き夕焼け色で校内が彩られ美しさすら覚える風景に似つかわしくない会話を耳にした…いや、してしまった。
教室掃除を終え、鍵を職員室へ返却しに行った時だった。
「蓼原、今月の学費だが…」
「大丈夫です。なんとかします…しますので」
「そうは言っても今月で三ヶ月だぞ。今月中になんとかしなければ退学も…」
「分かっています! あと一週間、一週間だけ待ってください」
「しかしだな…」
話の途中で先生が俺に気付いて話はそこまでになった。どこかバツが悪く逃げるように室内へ逃げる担任教師。残されたのは俺と蓼原だけ。
「今の話…」
「聞いてない、聞いてないよ!」
どうすればいいか分からず足早に去ろうとした俺を蓼原さんは制服の裾を掴むことで引き止めた。
「ね、一緒に帰ろ。少しだけでもいいから嫌なことを忘れさせて」
「分かった。俺でいいなら…」
「私、家族が私とお母さんしかいないの。だから学費もキツくて。
最初は高校なんて行く気なんて無かった…だけどおばあちゃんが行きなさいって入学費用を工面してくれたけど、そのおばあちゃんも入学してすぐ…」
そこから先は言われなくてもすぐに察した。
どうすればいいか分からず黙っている俺にポツポツと話し始める彼女の横顔は儚く弱々しいものだった。入学当初の強かった印象とは正反対で驚くしか無かったけど、きっとこれが本当の彼女なのだろう。
「学費の件、俺もなんとかしてみるよ。母ちゃんには言えないけど貰ったお年玉で…まぁ足りないだろうけどないよりは、な?」
「ふふっ。上村君って本当に変わってるね。
でも、ありがとう。学費の件なら本当に大丈夫、なんとかなるから…。それよりも来月の中間テストの心配しなくて大丈夫?」
「お前に心配されるほど俺はバカじゃねえし! 見てろよ次はいい成績出してやるからな!」
ムキになる俺に耐えられず声に出して笑う彼女。
それは始めてみた彼女の笑い顔。その眩しさは夕焼け空よりも明るく眩しかった。
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