第4話 日常の崩壊
あの一件からは特に何もなく穏やかな高校生活だった。変化があるとすれば蓼原さんがあれ以来よく笑うようになったことくらいか。
そのことを拓海にからかわれてムキになるまでが日常になりつつあった。
拓海は相変わらず他愛もない冗談ばかり、どこまでが本音かは分からず、決して自分を語らない拓海、そんな彼を俺も蓼原さんも不思議に思っていた。
俺と蓼原さんはお互いのことに興味を持ちはじめ、歩みはじめてるなか一人だけは違う。
そのことが俺たちにはむず痒く思いながらも、その一歩を踏み出せないまま日常は過ぎていった。
「さて、勉強もここまでにしますかね。相変わらず数学は苦手だ…訳わかんなさすぎる。図形なんて分からなくても生きていけるっつの」
「そんなこと言ってテストの結果で上村君に負けたら情けないわよ」
「大丈夫だ。少なくともコイツよりはマシな頭だから」
「うるせ! 次のテストは俺が勝つから見てろよ! 謝るなら今のうちだぞ」
「お、それは宣戦布告か? じゃあ、俺が勝ったらジュース奢ってもらおうかなー」
「あ、私ミルクティーでおねがーい」
「なんで蓼原さんにまで奢らなきゃいけないんだよ!」
他愛もない会話をしている時だった。
大きな地響きと地震に襲われた。
部屋にあった本は余さず散乱し、和やかだった場は一気に不安と恐怖に支配された。
「なに…」
「さあな。でも、ただの地震だろ。下手に動かないで助けが来るのを待とうぜ」
「あなたってほんとに冷静よね。逆に動揺したところ見てみたいわ…」
蓼原さんの言葉もどこ吹く風、肩をすくめ出口の様子を伺う拓海。
どのくらいの時間が経過したのだろうか…。
助けも来ず、周りも静寂に包まれたまま一向に変わる様子が無い。
「ねぇ、さすがにおかしくない?」
「うん…俺もそう思う。俺、少し外の様子を見てくる。蓼原さんはここで待ってて、拓海は」
「俺はここで待ってるよ。さすがにかわいい女の子一人にして何かあったらマズイからな」
「わかった」
「ねぇ、必ず帰ってきてよ…!」
蓼原さんの悲痛な声に力強く頷いた。
散らばった本をかき分けながら出口を目指すのは思いの外、難しく簡単には辿り着けなかった。
でも、外に出られれば助けも呼べる。
そんな甘い考えも扉を開け、図書室の外へ足を踏み出した瞬間に幻想となって露と消えた。
「は…?」
廊下に人はいた。
だが、少年は決して声を掛けなかった。例え、声を掛けてもその人が少年の呼び掛けに応えることはないだろう。
何も言わず赤い海に横たわるその姿は一瞬にして彼を絶望へと導くのだ。
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