第5話 残された日常
図書室の外は地獄だった。
右を見ても、左を見ても人が死んでいる。
「なにがあったんだよ。誰も生きてる奴いないのか…?」
慎重に一歩、また一歩と踏みしめていくが人はいない。充満した血と死の匂いは少しずつ少年を狂気へと蝕んでいく。
その時だった、微かに人の声がしたのは。
誰かがいる! その安堵感から少年は微かな声目指し駆け出した。
「誰でもいい…助けてくれ!!」
だが僅かでも考え、気付くべきだった。
その声の持ち主こそ、ここを地獄へと変えたのだとということを。
彼がそのことに気付いたときには既に遅かった。
向こうがしっかりと彼を視界に捉え、逃すまいと銃を構えてからだった。
「あ…あ…あぁ……」
死ぬ、そう直感的に思ったときだった。
何かを投げたような音が聞こえ、聞き馴染みのある声が響き渡った。
「こっちだ、走れ!」
聞き馴染みのある声の方へ身体が反射的に駆け出していた。何も考えず、ただひたすらに走っていた。
「大丈夫か?」
「生きてる…俺、生きてるよ…」
「あぁ、危なかったな。心配になって様子を見に来て正解だぜ。無いよりはマシだと思って持ってきた本も投げれば武器になるなんてなぁ」
「ほんとにありがとう。でも、拓海がここにいると蓼原さんが一人で危なくない?」
「私なら大丈夫よ、一人も嫌だから付いてきてたから。だけど、ひどい有様ね。吐きそうになるのを我慢するだけで必死よ」
良かった…そう思えてくると身体の力が一気に抜けてしまい、その場にへたれこむ。
「おいおい安心するのはまだ早いぜ。どうにかしてここを出なければヤバさは変わらんだろ」
「でも、どうやって…」
「奴らは玄関で待ち構えていた…となれば強行突破はまず無理だろう。裏口が手薄ならそこから出れるはずだ。ま、そこまで行けるかも問題ではあるけど」
「そもそもなぜヤツらは一体何者なんだ。どうしてここへ? 目的は?」
「考えるのは後回しにしよう。奴らに俺らがいるとバレた以上、探しに来る可能性もある。急いでいくぞ…といいたいけど立てそうか?」
「うん、少しは落ち着いたからなんとかね。ありがとう、拓海」
照れ臭そうに目線を逸らす友と微笑ましく笑いかける友人の存在はこんな状況でも安心できる日常を俺に与えてくれる。
帰るんだ、絶対に三人で帰るんだ。
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