白百合の花は救いをモトめている

トム・今本

断章  老人の願い

 どこで道を間違えたのだろうか。それは今でも自分自身に問い続けることだ。答えなど無い事は百も承知だ、それでも問わずにはいられない。

それが生き残ってしまった者の責務というものだ。さて、そろそろ日課としていることをしなければいけない時間だ。もはや、身体を動かすのも限界だが伝えなければならない、儂らが経験した地獄がどんなものであり、道半ばにして斃れた者たちの為にも。

「なぁ、儂はお前との約束を守れているかい? きっとお前の事だから忘れて自由に生きろというだろうね。最初の数年はそれが出来ていたけどそれからの数年は良心の呵責に苛まれ、そして贖罪の方法を探す旅が始まったんだよ」

誰に言うわけでも呟きながら机へと向かい、筆を握る。これより書き始めるは数十年も昔の話。

後の世で『世界革命』、『終末戦争』と語られている出来事のお話だ。

だが、皆が知っているのはほんの一部でしかない。

正直、真実の物語を書くかは正直悩みもした。

だけど、知ってほしかったのだ。戦い、傷つき斃れていった者たちがどのような思いでその命を散らしていったのかを。遠い昔のことではあるが今でも目を閉じると聞こえてくる戦場に響いていた怨嗟の声、死を拒絶しながらも死んでいく者たちの声が。

彼らの為にも書き上げなければならない。だが、儂に残された時間で書き上げきれるかは正直自信が無いが、書ける部分までは書き上げるつもりだ。

「そういえば、あの大戦を生き延びてまだ生きているのはもう儂だけか…。やれやれ、とんだ重責を背負わされたものだな。さて、どこまで書いたんだったかな?」

机に無造作に散らばった原稿を眺める。そうだ、の簡単な経歴までを書き終えたところだった。

いよいよ、本題となってくるところだ。

物語は彼らがまだ学生であった頃、楽しくもあり悲しくもあった時代の話だ。

時の針を過去に向けて遡らせていく…。

亡霊たちよ、語るのだ。お前たちの無念を、伝えようとした想いを儂を通じ世界に知らせようぞ。

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