第12話 夢への一歩
机上に置かれた一枚の書類。
そこに書かれた文面は先ほど萩原さんに言われた内容とほぼ同じだった。
要点をまとめるなら
『おばさんとの縁を切ること』
『身柄は軍の預かりとなること』
『いかなる任務であろうと異を唱えることなく全力で励むこと』
の三つが主だった。これにサインをすれば俺は正式に軍への配属が決まるんだ…。
その目に見えない緊張と重圧がペンを持つ手を震わせる。
「大丈夫ですよ。書類はあくまで形式上のものですので緊張しないでください。
今回は私もかなり無茶を押し通しましてね。周りを納得させるにはこれくらい必要なんですよ」
萩原元帥が不器用ながらも笑顔でそう話す。
その不器用ながらも必死に俺を安心させようとして見せた笑顔に思わずこちらも笑顔が溢れる。
「初めて笑顔を見せてくれましたね。やはり若い子には笑顔が一番だ。なんて…これから上官として過酷な任務を強いる側が言うべき言葉ではないですね」
「そんなことはありませんよ。これからの未来を守るために俺は戦うんですから。
あの日、何があったのか…一日も早くその原因を突き止めて、もう二度と俺のような人間を出さないよう全力でやるだけです。どうぞ、サインしました」
「ありがとう。……よし、書類も問題ないね。おめでとう。これで正式に日本政府軍の一人だ。ようこそ、上村亮平くん。これからの君の働きに期待させてもらうよ」
こんな簡単に書類一枚で軍に入れるとは思わなかった。
正直、まだ自分が軍人となれた実感がまだない。
「不安な気持ちも分かるけど今は素直に喜びなよ。目標へ近づけたんだ。二年前の亮平君を知る私としてはとても感慨深いものだよ。改めて、これからよろしくね。
上官と部下という間柄ではあれど、私たちは友人同士だ。困ったことがあれば相談しなさい」
「ありがとうございます」
仁科さんが上官か。なんだか不思議な感覚だなと思う。
二年前のあの日、俺を助けてここまで見てくれた恩人とも言うべき人が上官か。
なんだか面映ゆいようなそんな感じだ。
「さ、そろそろ出発しようではないか。いつまでもここに長居しては、お互いに別れが辛いものとなる。君の所属部隊などは移動の合間にでもゆっくり話そう」
そっか。この家とも今日でお別れか。
込み上げてくる感情に泣きそうになるのをぐっと堪え、俺はこの言葉を口にする。
「行ってきます。今までありがとうございました」
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