第13話 おなじ空の下
東京の中央にそびえ立つ要塞に似た外観の建造物。
その場所こそ軍司令部であり日本政治の要でもある。
静かにそびえ立つ姿は近付くものを威圧し、簡単には近付くなと言わんばかりの迫力がある。
「どうした、緊張してるのか?」
「少し。今までは遠くで眺めるだけだったけどもう違うんだなって思うと」
「二年、よく耐えたな。これまでも色々あった思うがこれからは益々大変だから覚悟しとけよ」
「うん、分かってる」
蓼原さんは今、なにをしているのだろう?
ふと、そのことが脳裏をよぎる。あの日、奴らに拉致されたまま今日まで安否不明。
公には死亡したことになっているが、俺はまだ生きていると信じている。
「こんなに早く軍事政権が確立されるとはな…。もう少し掛かると思っていたんだが。まるで、そうなることが決まっていたようだ」
「そろそろ到着するのだ無駄話はやめてくれないかな」
仁科さんにしては珍しい弱音にも似た言葉。その言葉に
『それってどういう意味なんですか?』
そう問いかける前に萩原元帥から制止された。まるで、余計なことを言うなと言わんばかりに…。
軍はなにかを隠している?
「さ、着いたよ。私は残った執務をせねばならんのでね一足先に失礼する。仁科、後事を託すが構わないね」
「はっ。問題ございません」
「うむ、よろしい」
去り際にこちらを一瞥し、萩原元帥はこの場を後にした。
「さ、中の案内をしながら軍が担っている役割を細かく説明していくけど問題ないね?」
「はい。お願いします」
「うん。あと、扉から向こうでは仁科さんではなく、仁科少将と呼ぶように。私はそのままでも構わないのだが、上官と部下の立場をはっきりさせておかないと周りがうるさくてね」
「あ、それもそうですね。気を付けます」
精一杯の敬礼で敬意を表すが、そんな俺を見て仁科さんはたまらず吹き出してしまった。
「ちょっ、なんで笑うんですか!」
「いや、すまない。あまりの初々しさについね」
ひぃひぃ言いながら笑う姿につられて俺まで笑わずにはいられない。
上官と部下の立場を弁えろ、と言われた矢先にこれでいいのだろうかと思うが、それよりも久しぶりに笑う楽しさを今は味わっていたかった。
時間も忘れるくらいに笑ったのはいつぶりだろうか。
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