第27話 死者は雄弁に語る
地獄絵図、まさにその言葉がピッタリだろう。
「これは想像以上にひどいな…。人がこんな環境で生きられるとは俺には思えねえ」
「同じ災害で街は壊滅したはずなんですけど、俺のところより被害が凄いなって思ったんですが気のせいですかね」
「いや、わたしも同じことを考えていたところだ。津波はなく地震だけでここまでとは…当時の人たちの恐怖は想像を絶するものだっただろうな」
「本当に地震だけだったのかねぇ。こっちに来いよ、少し興味深いものがあるぞ」
いつの間にか少し離れた場所に行っていた石崎さんが俺たちをそう呼ぶ。
なんだろうか?そして、興味深いものとは。一歩、一歩…自分の過去を噛みしめるようにして近付いていくとそこにあったのは壁に付いた血痕だった。
じっと見つめても何かがあるわけでもない。これのどこが重要なのだろうか。
「ふむ。確かにこれは気になるな」
「え、どこが問題なんですか?」
「いいか。この血痕は飛沫血痕と言って動脈切断か凶器の振り上げ運動が起こった場合に付くものだ。問題となるのはなぜ、コレがここにいつからあるのかだ。地震の被害で付いたもの? いや、違うな」
「その理由は周りを見れば分かる。動脈部分を切断するケガが起きたにしては周りはキレイすぎないか? ガラス片なども無く、ケガしそうなものもない」
仁科さんに言われて周りを見渡すが確かに小さな瓦礫があるくらいで大きなケガに繋がりそうなものは無い。でも、さっきの説明だと残る可能性は。
「やっと気付いたか。そう、ここでケガが起きた可能性が低いのならなぜ、この血痕が残っているのかが疑問になる。だが、もう一つ、残る可能性はある。
それは誰かが意図的にここで殺人を犯した可能性だ。なぜ、そんなことをしたのか。
災害時に起きたものだとしたら、なぜそんなことをしたのかが重要になる」
「そして災害後だとしたら立ち入り禁止となったこの場所に誰かがいた可能性を証明していることになる」
「そういうことだ」
血…そうだ、あの日、俺も見たじゃないか。
血の海に横たわる人、人、人!! あれ……なんだか息苦しくなってきたな。
「さて。ここからどうするかねって……おい、大丈夫か! おい!!」
誰かが必死に俺を呼んでいるけど誰だろ…。分かんないけど、今は目を閉じてゆっくり寝よう。それがいい気がしてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます