第28話 贖罪

ここはどこだろうか。なんだか懐かしい気もするけど…。

遠くで誰かの声がする。懐かしくすらある声…そうだ、この声は。

「蓼原さん? そこにいるの?」

呼びかけても返事はない。声に近づこうとしたとき足に何かが当たった。

なんだろうと思い、足元を見ると彼女はそこにいた。

血の海に横たわって恨めしそうに俺を睨み付けていた。

「あなただけ…。どうしてあなただけが生き残ったの?」

「僕も生きていたかった。死にたくなかったよ」

「痛い……痛いよ」

気付けば周りは亡者の群れだった。母親、先生、懐かしい級友たち。

みんな俺に向けて恨み言をぶつけてくる。やめろ……やめてくれ。

俺だって好きで生き残ったんじゃない……。

「だったらあなたも一緒に死にましょ!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

気付いたら、腰を抜かした仁科さんが隣にいた。

崩れかけた天井からは僅かに空が見える。

今のは夢だったのか…。良かった、夢でと思うがあのまま目覚めなければ良かったのにとすら思う自分もいた。

「目を覚ましたと思ったらなんだね、まったく」

「えっと、俺は」

「きみはあの時、過呼吸で倒れたのだよ。まだ顔色も優れないが大丈夫かね?」

「は、はい。なんとか。いえ、本当はかなり大丈夫じゃないです。あの、石崎さんは」

「周囲の探索に出ているよ。少しでも手がかりが欲しいとさ」

そっか。あの人らしいと言えばあの人らしいな。

「無理せずもう少し休みなさい。水や食料が欲しいなら遠慮しないで言うんだぞ」

「今はなにもいりません。ただ、もう少し休ませてください」

「ああ、ゆっくり休めばいい」

ゆっくり重い身体を起こし、改めて周りを見ると黒板、ボロボロになった机と椅子。

どうやら昔は学校だったようだ。

「そうだ。あの日も学校で勉強していたんだ」

「ん? どうした」

「あの日、俺は彼女とあいつとで勉強していたんです。そして…」

「あの災害が起きたというわけか」

「はい…。少し中を歩いて回っていいですか? もしかしたら、あの日に起きた出来事になにかあるかも」

「構わないが大丈夫かね?」

「今なら忘れていたものも思い出せそうな気がするんです」

まるで質問への答えになってないというのは自分でも分かったが、今はそれよりも学校にいるということが俺には重要だった。

思い出せ、思い出すんだ。あの日の憎しみと悲しみを。

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