第24話 正義の在り方
誰もいなくなった部屋で人心地つく男がいた。仁科航平だ。
自分のやらなければならない仕事は分かっている。
だが、その仕事は優しすぎる彼には荷が勝ちすぎていた。少しずつ摩滅していく心を実感しながら、あとどのくらい軍人としていれるかをぼんやりと考えていた。
「この2日で随分、やつれたなぁ」
「誰のせいだと思ってるんですか。上に探りをいれても身動きできないよう圧を掛けられて思うように進展しない。挙句に、脅迫じみた形で今回の任務を押し付けられてほんと疲れますよ」
「そいつは…すまんな」
「別に気にしないでください。わたしも上層部への疑念が増すばかりでなんとしても尻尾をつかんでやろうって思ってますので」
無理して笑顔を作って、安心させようとしたけど失敗だったみたいだ。
石崎さんは病人を見るような目でわたしをじっと見つめる。
その視線がたまらなく痛々しく何とも言えない気持ちになる。
「お前が途中リタイアしたら誰があの子の面倒を見るんだ。
言っとくけど、俺はごめんだからな。これ以上、老兵に重荷を背負わせないでほしいものだ」
「分かってるよ。でも、わたし達は軍人だ。いつ、死ぬかも分からない。万が一のことがあれば平江にでも頼むことにしよう」
「そういう問題じゃねえ!亮平はお前を親代わりとして見てるんだ。
もう二度と大事な人を失う悲しみを味わせるな。それが俺たちに大人にできる最大限だ。それをした時点で大人としては失格なんだよ」
珍しく声を荒げて怒鳴り声を上げる石崎さんに驚きを隠しきれなかった。
自分が背負っている覚悟が間違っているとは思ってない。だが、彼から見ればそれは間違いなのだ。その面においても正義というものの難しさを実感させられる。
「アイツは危ない橋を渡ろうとしている。止めるのはまず無理だろうな。俺が見れるのには限界がある。それにたぶん上官殿の力も借りたいと思っているはずだぜ」
「危ない橋?」
「例の件だよ。ほら、生き残ったっていう災害。最近はそのことを調べることに夢中になってる。たぶん、そのことは上にもバレてるぞ」
「だから、今回の任務を…?」
「いや、今回の任務は最初から決めていたはずだ。問題になってくるのは本当に試すだけなのか、それとも別の思惑があるのか」
「別の…」
「それが何なのかを俺たちで確かめるんだよ。火中の栗を拾うってな」
『あぁ、この人は死ぬ気だ』
それを直感として理解した。石崎さんはきっと彼の為に命を賭して動くんだろうな。
なによりも不条理や曲がったことを嫌う彼らしいと思う。
きっと止めても聞かないだろうし、そもそも否定されるだけだ。
『そんなことはない』
って。わたしにできるのは誰も死なせないように全力を尽くす。それだけだ。
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