第10話 ただ一人生き残った少年
張り詰めた空気のまま二人を居間へ案内したが話が中々始まらず沈黙が続いていた。おばさんには込み入った話ということで席を外してもらった。
「さて、時間も惜しいので早速、本題に入ろうか」
不敵な笑みを浮かべ元帥はようやく重い口を開いた。
「今日が何の日か。当然、理解しているね?」
「軍へ所属するための選抜試験の日ですよね……」
「そうだ。今日は国の未来を左右するかもしれない多くの若者が中央司令部へ来る素晴らしい日だ。そして、君もその一人となろうとしている……間違いないね?」
「はい。俺は軍に入ることが目標でしたので」
「そうか。その言葉を聞いて安心した。喜びたまえ、君は試験免除という特例ケースで軍への配属が決定している。ただし、それには条件がいくつかある」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
特例ケースってなんで俺が…。ましてや、その事実を元帥自ら伝えるなんて異例極まりない。あまりの衝撃に脳の理解が追い付きそうにないがそうも言っていられない。
出される条件ってどんなものなんだ…。未知という恐怖から身構えずにはいられなかった。
「話を続けてもいいかな?」
「は、はい。お願いします」
「まず、君が特例ケースとして認められた理由についてだ。
二年前、世界各地で同時発生した大地震。その地域に住んでいた者は災害による被害で死亡、もしくは何者かに虐殺されており生き残った人間はいない。ただ一人の人間を除いて。
無論、君も察してはいると思うがこのことは重要機密案件として扱われている。そのことは君を養子として引き取ってくれた彼女にも話したうえで口外しないようお願いしている。分かるかね? 君は生きた国家機密なんだよ」
話の筋が見えてきた。なぜ、俺が特例ケースとして認められているのか。
「つまり、国家機密である俺を軍の管理下に置くことで情報が外部に漏れるのを防ぎたい。そういうことですね」
「その通り。この二年で世界は大きく変わった。政治も経済も、それは日本とて例外ではない。議会政治は機能しなくなり、今では我々、軍が政治の実権を握っている。
だが、他国と比べればまだその力は弱い。しかし、君という存在が今の情勢を覆せるかもしれないのだよ。その為にも、尽力してもらいたいと思っているのだが…」
「拒否権はなさそうですね。いいですよ。俺も貴方たちを利用して俺の目的を達成させてもらいますが構いませんよね。それで条件って何ですか?」
「気に入ったよ。なるほど、仁科が気に入るわけだ、くっくっく。さて、条件だが君を養子として引き取っている花江氏と縁を切ること、かな」
え…?
それはおばさんとの縁を切れということだ。
出された条件に自分の決意が強く揺れるのがよく分かる。
俺のただ一人の家族を取るか、夢を取るか……。
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