地上へ

 人魚の村に来てから数ヶ月、オレはひたすらオチェアーノの剣を振り続け、思いのままに使いこなせるようにまでなった。

 これならおそらく実戦でも使うことができるだろう。

 柄はすっかり手に馴染み、オレの手の一部のように感じられた。


 人魚の村の家に帰り、リアに話を切り出す。


「そろそろこの村を離れようと思うのだが……」

「どうしてですか?」

「剣の修行がいいところまでいってな。そろそろ地上に戻って戦うべきだと思う」

「そうですか……」


 リアは下を向き、暗い顔をした。

 ここでの生活がとても楽しかったからだろう。


 人魚の村に攻めてくる敵は来ないし、ここにいる限り俺たちの安全は約束されたようなものだ。

 だが、ここはオレたちの本当の居場所ではない。

 オレたちには戻らなければいけない場所があるのだ。


「分かりました……でも、私も一緒に戦います」


 顔を上げ、口を固く閉めて決意の表情でいった。


「死ぬかもしれないぞ」

「覚悟の上です」


 なんだか、昔似たようなやりとりをした気がする。

 リアもそれに気づいたのか、少し微笑んだ。


「それじゃ、女王様の元にいきましょうか」

「そうだな」


 数ヶ月使ったオレたちの家を後にして、ラミアのいるところへと向かった。


「もうお戻りになってしまうのですか。もっといればよろしいのでしょうに」

「気遣いには感謝しますが、いつまでもここには要られません」

「そうですか……」


 ため息を一つつき、ラミアは話し出した。


「ここで暮らしている限りあなたたちは幸せに暮らせますよ?」


 ラミアの問いかけにベルが答える。


「私たちはこの世界で堂々と暮らせるようになりたいんです。逃げ隠れして暮らしているのは嫌なんです」


 リアの言葉に、ラミアは苦い顔をした。


「あなたたちの敵は魔物と人間です。それでも勝てる見込みはあるのですか?」

「それは……」


 リアが答えに詰まったところで、オレが代わりに答える。


「具体的な方法はありませんが。きっとどうにかしてみせます」

「若いですね」


 ラミアは完全には納得したという感じではないものの、話はわかってくれたようだ。


「もし何かあったら、この笛を使いなさい。私が力を貸しましょう」

「ありがとうございます」


 ラミアから銀の笛をもらう。

 笛の大きさは腰につけるのにちょうどいい大きさで、持ち運びには困らなそうだった。


「あなたたちの無事を祈っています」


 ラミアは手のひらをこちらに向け、詠唱を始める。

 オレたちの真下に魔法陣が現れ、白い光が溢れ出した。

 詠唱が進むにつれ、光が強くなっていく。


「あなたたちは魔界の方からいらっしゃいましたが、今回は人界の海岸に送らせていただきます」

「なぜですか?」


 オレたちが目指していたのは魔界だ。

 本当に人界に送り出されたら船旅の意味がなくなってしまう。


「魔界は魔物の監視がとても強固になっていて、どこに転移させてもあなたたちが現れたことがバレてしまいます」


 オレを捕まえるためだろう。

 ずっと大陸全土を見張り続けるとは、父はなんという執念を持っているのか。

 元凶であるアンジェルスを止めないと本格的にまずいことが起こりそうだ。


「王都の近くの海岸に送ります。それでは、お元気で」

「感謝する」

「ありがとうございます」


 二人で礼を言う。

 オレたちを包む光がだんだん強くなり、ついには視界が真っ白に染まった。

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