魔物の街

 ここまま何事もなく魔王城に行けるかと思われた時だった。


「ねえ、せっかくだし魔物の街に入ってみたいんだけど」


 そう言い出したのはフラウだった。


「オレたちは手配されている身だ。

 入ったらバレて捕まるぞ」

「変装すればなんとかならない?」

「なるかもしれないが……」


 変身魔法はなくとも、服装を変えたり肌の色を変えたりすることで見た目を変えることはできる。

 魔物はこんなところに人間がいるわけがない、と考えているので、騙すのは簡単だろう。

 だが、見つかった時が面倒だ。

 証拠隠滅のために1人のこらず抹消しなかればならない。


「そんなに街に入りたいのか?」

「どうしても!」


 両手を合わせ、お願いというポーズをしてくる。


「フラウ、コンランスがいるからといって魔界でなんでもできる訳ではありませんよ」

「それに、こんなところで魔物に捕まったら二度と脱出できないからな」


 ロアとレーグに反対され、いつもは元気なフラウが少し悲しそうにしている。


「そんなに言うことないじゃん。

 ちょっと興味があるだけなんだから、許してくれてもいいじゃん」


 よくはないのだが、少しかわいそうだった。

 オレたちがそんなフラウを見て黙っていると、おずおずとリアが手を挙げる。


「コンランスさんに捕まったことにして街へ入れてはどうでしょうか?」

「確かに、それならオレが変装するだけでいいな」


 元から見つかっている状態で入るのだ。

 特に人間がいるとバレても問題にはならないだろう。


「ねえいいでしょ? 少しだけ、少しだけだから!」


 フラウのゴリ押しにより、魔物の街へ入ることが決まったのだった。


「なんで私とフラウさんだけ檻の中にいるのでしょうか?」

「男2人は大反対だったんだ。

 あいつらは森の中で潜んでおくと言っていたから、多分大丈夫だろう」


 オレはフラウとリアを入れた檻を荷車に乗せて引いていた。

 オレたちがいるのは魔王城に最も近い街。

 ここに住む魔物の数は魔界の中で最大で、魔界でもっとも栄えている街といっても過言ではない。

 建物は石造のものが多く、誰かが暴れたとしてもすぐに壊れないような造りになっている。

 街全体は黒っぽいが、住民が陽気なので暗い雰囲気は一切なかった。


 変装はすでに完了していて、近場にいた魔物からレーグが奪ってきた装備一式だ。

 着心地は良くないが、オレの正体を隠すにはちょうどいい。


 一方、レーグとロアは森の中に潜伏していた。

 檻に入っているのが無理だと言うのが2人の意見だったので、それを尊重して隠れていてもらうことにした。


「なかなか面白い街ね。

 人間の街と違って興味深いわ」


 フラウは檻の中から街を眺めていた。

 本人はかなり楽しんでいる様子で、あたりをキョロキョロと見回している。

 何か面白いものが見つかるたび、リアに話しかけていた。


「ねえリア、あれ見てよ。

 魔物の形してて変な銅像じゃない?」

「ええ、まあ」


 フラウのテンションにリアはついていけない様子だった。

 むしろ迷惑そうにしている。

 ただ、相手が仲のいい相手の手前、やめてくれとは言えないようだった。


「静かにしないとバレるぞ」

「はーい」


 フラウとリアにも一応着替えさせて変装はしているが、ここは魔王城の近くなのだ。

 何かの弾みにバレないとは限らない。


 オレはフラウの要求に応え、街の中でフラウが行きたいところを案内し続けていた。


「へえ」や「すご!」などの反応をいく先々でしてくれるので、案外楽しいものではあった。


「もうすぐ夕方でしょ? 私はここの宿屋に泊まりたいんだけど、できる」


 日が傾いてあたりが暗くなり始めた時、フラウがボソッと聞く。


「できないことはないが、泊まりたいのか?」

「うん」


 フラウは楽しそうにしているが、リアはもうクタクタな様子だ。

 一日中あたりを警戒していなければならなかったので、リアがそうなるのは当然だった。

 フラウがおかしいのだ。


 あたりを見回し、宿屋を探す。

 

「一般向けのところでも構わないか?」

「いいよ」


 荷車を引きずって、オレは近場の宿屋に泊まった。


「それにしても疲れたねー」

「私はもう死ぬかと思いました……」


 宿屋の一室で、2人は檻の中から出てきた。

 

 オレたちが泊まった宿はベッドが2つで、あまり広い宿屋ではなかった。

 さすがに2人を檻にいつまでも入れておくのはかわいそうなので、真夜中にこっそり連れてきたのだ。


「宿屋の中はあんまり変わらないんだね」

「まあ、ここは休むためのところだからな。

 人間も魔物も休み方は一緒だ」

「それで、私はもう寝たいんだけど、どのベッドを使えばいいの?」


 ベッドは2つ、対してオレたちは3人。

 明らかに数が足りなかった。


「オレは外で寝てくる。

 お前たちは中で寝てろ」


 そう言って外へ行こうとした時だった。


「あのっ、私と寝るのはダメですか?」

「は?」

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