エルギオス

 勇者とエルギオスは異界に立っていた。

 果てしなくつづく焼け野原。

 あちこちで何かが燃えている音。


 ここは地獄そのものだった。


「どこだ?」


 レーグはあたりを見回す。

 地形は建物を見る限り、知っている場所ではないよだった。

 

「どうやら別世界のようですね」

「私ほんとに別世界に来ちゃったの?」


 ロアは冷静に判断をしているが、フラウは異世界という言葉に喜びを隠せないようだった。

 だが、フラウは周りの光景を見ると、すぐに口を閉じてしまった。

 

「ここ、ひどくない?」

「雰囲気のいい場所ではありませんね……」


 誰もがよくわかっていなかった。


 エルギオスはどこからともなく現れ、勇者たちに向かいあう。


「ここは私が滅した世界の一つだ。いづれお前たちの世界もこうなるだろうよ」

「いい加減なことを言うな!」

「どうやら信じてくれないようだな」


 ため息をつき、エルギオスは指を適当な方向を向ける。

 小さく呟くと、指の先から光線が現れた。

 一直線で進む光は大地を焼き、あたりを火の海に染め上げた。


「ひどい……」

「これで信じてもらえるかな?」

「テメェ」


 レーグの手に力がこもる。

 その表情は憎しみに満ちていた。

 ロアはこめかみに青筋を浮かべて、珍しく切れている。

 

「そんな顔をしなくても大丈夫だ。感情任せで戦ってもらっては面白くない。全力でオレの相手をしてから死んでくれ」


 エルギオスが不敵な笑みを浮かべる。

 勇者たちは一斉に武器を構えた。


 フラウが補助魔法をかける。

 レーグとロアが温かい光に包まれた。


「2人ともやっちゃって!」

「おう!」

「任せてください!」


 エルギオスに向かっていく。

 二体一という状況にも関わらず、エルギオスは動きすら見せない。

 ふと、指が動いたのをリアが察知した。


「2人とも来ます!」


 叫び声を聞き、レーグとロアは体を捻る。

 先ほどまで2人がいた場所を白い光線が走っていた。

 

「さすがは勇者と言ったところか」

「伊達に勇者を名乗ってるわけじゃないんでな!」


 レーグはエルギオスの首に向けて剣を振るった。

 だが、その一撃はエルギオスの片手で止められる。

 驚きでレーグの表情が一瞬崩れる。


「重みが足りませんよ」

「こっちもいますからね!」


 エルギオスがレーグを見た瞬間。

 逆側から脇腹を狙ってロアが拳を振る。

 振り返ることなく、エルギオスは彼を足で蹴り飛ばす。


「ごはっ!」


 ロアの口から血が溢れる。


「弱すぎる」


 エルギオスは煩わしそうに呟いた。

 リアは慌ててロアに駆け寄り、傷を癒した。


「すみませんね」

「これが私の力ですから」


 一言感謝すると、ロアは再びエルギオスに向かっていった。


「離せこの野郎!」

「自分の力で抜けばいいでしょう」


 エルギオスに握られた剣はびくともしなかった。

 レーグは力に自信があった。

 それでも全く敵わないのだ。

 エルギオスはどれほどの力を秘めているのだろうか。


「ふん!」


 ロアが回し蹴りを繰り出す。

 今度はさすがに余裕はなかったようで、エルギオスはレーグの剣を放し、両手で受け止めた。


「なかなかいい一撃だぞ」

「お褒めに預かり感謝する」


 言葉の割にダメージはあまり通っていないようだった。

 だが、地道に攻撃する以外勇者たちにできることはなかった。

 

 戦うこと数時間、レーグやロアが傷つくたびにフラウとリアがサポートし、また戦うという光景が繰り返されていた。

 

「お前、疲れるとかないのか?」

 

 肩で息をしながらレーグは尋ねる。

 2人がかりでエルギオスを攻撃しているのに、彼には汗ひとつ浮かんでいない。


「全然。私はある程度の時間で魔力が回復するからな。お前たちの攻撃を回復するぐらい容易いことだ」

「てことは、持久戦は無理なわけか」


 殴っても回復される。

 ということは、リアとフラウの魔力が切れた瞬間から回復ができなくなる勇者たちの負けということだ。

 このまま戦っていても埒が開かないことは4人とも理解していた。


「それじゃ、奥義でも使うか」


 レーグはコンランスに使った奥義魔法を唱える。

 途端、彼の周りの圧が上がったのを全員が感じた。


「ほう、面白い」

「レーグさんの本気は凄まじいものですからね」


 ロアが褒める。


「楽しませてやるぜ!」


 桁違いの力がエルギオスに殺到した。


「リア、回復してくれ!」

「はい」

「フラウ、もっと魔法を強くしろ!」

「わかってるわよ。これ以上できないの!」

「私の出る幕ありませんね……」


 これでもかという補助魔法を受けながら、レーグとエルギオスは戦っている。

 ロアも途中まではレーグのサポートをしていたが、すでに彼の速さに追いつけなくなっていた。


「何もしないのも良くありませんし、魔法ぐらいしますか」


 ロアは魔法を唱え始める。

 

「嘘、ロアが黒魔法を使うの?」

「私をなんだと思ってるんですか……」


 フラウのツッコミに呆れる。

 確かにロアは肉弾戦を好むが、彼はれっきとした黒魔法を操る勇者なのだ。


「スリップ」


 エルギオスの動きが一瞬止まる。


「煩わしい」


 彼はロアを一瞥するだけで、気にもとめていないようだった。

 それほど効果がないということなのだろう。


「よそ見すんな!」


 レーグはエルギオスに斬りかかる。

 まだまだ決着はつきそうになかった。

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