討伐

「あなたは本当に強くなりました。誇っていいことだお思いますよ?」

「うるさい!」

「そんなに焦らなくても、勝負はまだまだつきません」


 自分が戦場を支配している、と言わんばかりの発言に、レーグはさらに怒りの色を滲ませる。


「レーグさん! 感情任せに戦っても勝てませんよ!」

「わかってる!」


 リアに注意されて返事はするものの、戦い方は力でゴリ押しているようにしか見えない。

 それに、段々とエルギオスがレーグを捌き慣れてきたようだ。


「そうですよ。勇者らしくしっかりしてください」

「お前……!」


 レーグの目は正気ではなくなっていた。

 ただひたすら剣を振るう人間。

 それが今の彼だった。


 一撃一撃を正確に予測し、ついには反撃を入れ始める。

 

「遅いですね」

「ぐっ……」


 脇腹を思いっきり蹴られ、レーグは地面に崩れた。

 すぐさまリアとフラウが回復するが、精神的なものまでは癒すことができない。

 天使に負けたという敗北感がレーグの心のほとんどを占め始めていた。


「レーグさん、そんな調子では魔物のコンランスさん以下になってしまいますよ!」

「ちょっと、その言い方はないでしょ⁉︎」


 フラウが突っ込んでくるが、リアはお構いなしにレーグへと問いかける。

 少しずつではあるが、負けられないという競争心が大きくなり始めていた。


「そうだよな、やるしかないよな」


 覚悟を決め、レーグはもう一度立ち上がった。

 剣を改めてエルギオスに向け、目には闘志を宿らせる。


「今度こそ殺してやる」

「できるものなら」


 第二幕が始まった。


「ぬうっ」


 先ほどまで優勢だったエルギオスが、今度は追い詰められ始めていた。

 力任せの攻撃ではなくなり、パターンが読めなくなったからだ。


「ほらほらどうした? さっきまでの威勢を見せてみろよ!」

「レーグさん、あまり調子に乗るのはどうかと思いますよ」


 ロアがレーグを諌める。

 少しずつではあるが、確実にエルギオスの体力を削り始めていた。

 

「そろそろまずいですね」


 流石に危機感を覚えたのか、エルギオスが胸元から黒い球を取り出す。

 何かを唱えたかと思うと、玉から暗黒の力が溢れ始めた。


「これまずいんじゃない?」

「黒魔法でも相殺できません!」


 黒い力は勇者たちを狙い襲ってくる。

 いくら攻撃しても効かないようで、どんどん体にまとわりつこうとしてくる。


「面倒だな……はっ!」


 レーグの剣で払うと、黒の霧は簡単に消えてしまった。


「なぜだ!」

「この剣は太陽の力がこもってるからな。闇の力なんて話にならないんだ」


 ニヤッと笑うと、動揺しているエルギオスの体に大きく切り裂く。

 

「ぐはっ!」


 うまく急所を捉えられたようで、エルギオスは口から血を吐いて倒れてしまった。


「まさか、勇者に負けるとはな」

「悪は負けるっていうのは昔から決まってるんだよ」

「そうだな」


 地に伏すエルギオスの顔には笑みが浮かんでいる。

 死ぬ寸前でも余裕があるということなのだろう。


「この状態はなかなかきつい。今すぐ殺してくれないか」

「それは無理だな。もう少し話したいことがある」

「なんだ?」

「お前、人界で働いてみてどうだった?」


 一度血を吐いて、エルギオスは話し始める。


「なかなか楽しかったぞ。俺の命令で人々が発展していくのはみていて面白かった」

「そうか……」


 再び沈黙が訪れる。

 レーグが先に口を開いた。


「もう楽になれ」

「そうさせてもらう」


 エルギオスにとどめを刺した。

 彼はもう二度と目を開くことはなかった。


 勇者たちの体は光に包まれ始める。


「私たち、帰れるのでしょうか?」

「多分そうだろうな」

「きつい戦いだったわね」

「レーグさんに頼りきりだったのが残念です」


 四人とも一斉に転移する。

 エルギオスの体はその場に残されたままだった。


 俺が魔物に事情を説明していると、突然4つの光の玉が現れた。

 中から出てきたのは勇者たち一行だった。

 みんな怪我をしているが、致命傷を負ってはいなかった。


「コンランスさん、終わりました!」

「あれ、あの人間の言っていることがわかるぞ」

「俺もだ……」


 リアが話すと、魔物の間で動揺が走る。

 どうやら天使がかけた呪いが解けたようで、魔物と人間が話すことが可能になったようだ。

 

 オレは勇者たちを交え、魔物たちに事件の全貌を説明し終えた。

 全てを簡単に信じることはできないようだったが、徐々に理解して貰えば問題ないだろう。

 

「次は人界だな」

「ああ、オレも一緒に行かせてくれ」

「もちろんだ」


 レーグに言われ、オレたちは人界へと向かった。

 王が突然殺されたので大騒ぎになっていたが、勇者たちが事情を説明するといくらか落ち着いたようだった。


 次の王は候補が誰もおらず、誰がなるのか早く決めなければならないようで、忙しい勇者たちを置いてオレは魔界へと帰った。

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