真の敵
「何をした!」
「見た通り、殺しただけですが」
「お前が使える魔王だろ!」
「いえ、私のおもちゃです」
平然とそう言った。
殺したことになんの罪悪感も抱いてないようだった。
オレにとって魔王は養父なのだ。
今は仲が悪かったが、きっと話し合えば理解し合えると思っていた。
だが、魔王が死んでしまった以上、それは叶わないものとなってしまった。
「あなた、人魚族と手を組んでいるようですね」
「知っているのか?」
「ええ、あの一族とはやり合ったことのある仲なので」
どうやら人魚族の存在をアンジェルスは知っているらしい。
こいつは一体何者なのか。
「魔王といいグレムリンといい、魔物には役に立たないものが多すぎです」
大きくため息をつく。
まるで子供が大事なおもちゃが壊されたみたいに。
話からするに、グレムリンを人界へ送ったのもアンジェルスなのだろう。
「アンジェルス、お前は何者だ!」
「誰それと言うほどのものではありませんが……」
アンジェルスは背中から白い羽を広げる。
その瞬間、とてつもない魔力が溢れ出した。
「ちょっと、あいつ何者よ? だいぶ強いんじゃない」
「オレが教えて欲しいぐらいだ」
フラウに聞かれても、オレには奴の正体がわからない。
よくよく考えれば、奴が羽を出したことなど正体を明かすとき以外一度もなかった。
「新手が現れたのか?」
「加勢します」
ちょうどその時、門番を倒したらしいレーグとロアが現れた。
まず死んでいる魔王を見つめ、それからアンジェルスを見る。
何が起こったのかわからない様子だった。
「魔王は倒したのか?」
レーグが尋ねてくる。
「倒したというより倒された。元凶はあの魔物だったんだ」
「魔物なんて下等な奴らと一緒にしないでください」
アンジェルスが邪悪な笑みを浮かべる。
こいつは魔物だと言っていたが、それも嘘なのか。
「勇者と魔物の王子、こんなに怖い組み合わせはありません」
「てめぇ、オレたちを馬鹿にしてるのか」
「レーグさん、乗らないでください」
レーグは怒り心頭といった感じだ。
馬鹿にされたのによほど腹が立ったのだろう。
リアはいつも通り冷静だった。
「アンジェルス、待たせたな」
虚空から現れたのは人間の男性。
初老ぐらいで、髪は白髪だ。
こいつ、どこかで見たことがある。
手にはミアを抱えていた。
気絶しているが、死んではいないようだ。
「エルギオス、遅いですよ」
「王を殺すのに手間取ってな」
「今、なんと?」
珍しくロアが動揺していた。
声がとても震えている。
「王を殺した。家臣の雑魚が面倒で手間取ったがな。結局ミーティア王女を助ける代わりに自殺するということで落ち着いたがな。もっとも、今ここで皆殺しにするが」
「エルギオスさん、あなたは王に忠実な家臣ではなかったのですか⁉︎」
ロアが声を荒らげる。
拳には血が滲んでいる。
かなり頭にきているようだ。
「お前は王に好かれていた勇者か。まあ、そんなに怒るな。もともと殺す予定だったんだ」
「どういう意味だ!」
「そのまま、といっても納得してくれないだろうな。種明かしでもしてやるか」
ミアを玉座に放り投げ、ため息をついてからエルギオスは話し始めた。
「そもそも、私とアンジェルスは天使だ。オレたちは内部工作を行い、人間と魔物の戦争を起こすのが目的だった」
「なぜそんなことを」
「楽しいからに決まっているだろう?」
エルギオスはオレの問いに当然のように答える。
罪悪感など微塵もない。
「コンランス、お前はもともと人間だ。お前は今まで、魔物と人間両方と話せるのが不思議に思ったことはなかったか?」
「私たちは戦争を起こすためにあなたを魔物にしたんですよ。禁忌の魔法でね」
オレは人間だと言われ、なぜか納得した気持ちが生まれる。
人間のリアを好きになったのは不思議なことではなかったのだ。
もともとオレは人間なのだから。
「2つの種族が使っている言葉は同じだが、オレたち天使が別の種族には通じないように何百年も前に細工をした」
「それで、人間と魔物は話せず、争い続ける状況ができたというわけか」
「その通りです、コンランス様」
アンジェルスに名前を呼ばれるのが非常に不愉快に感じた。
「名前を呼ぶな」
「あらあら、つれないこと」
アンジェルスの笑いを無視し、エルギオスは話し続ける。
「長く戦っても決着がつかず、正直見飽きた。そこで人間であり魔物でもあるお前を生み出し、人間の情報を魔物に筒抜けにさせ、魔物に人間を滅ぼさせるつもりだった」
「だが、オレはそれをしなかった、と」
「そういうことだ」というと、天使2人の顔が怒りの表情と化した。
魔物を思い通りに操れず、イライラしているということか。
「オレは人界に潜伏し、アンジェルスは魔界に潜伏して工作までしてやったのに、平和になるというのは実に面白くない」
オレのやり方が気に入らなかったようだ。
「私は混沌の世界が好きなのでね。もう人間と魔物は見飽きたし、皆殺しにすることにした」
「エルギオス!」
ロアが殴りかかる。
魔法の力を込めた全力の一撃だった。
「ふん」と鼻を鳴らし、エルギオスは片手で受け止める。
余裕の表情だ。
こいつはかなり強い、と見ている全員が思っているだろう。
「まずはあなたたちに死んでもらいましょう」
勇者とオレ対天使の戦いが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます