新たな勇者

 戦場は人間と魔物が入り乱れていて有利不利がわからない状況だった。


「どうだ、初めて見る本格的な戦場は。ゴブリンがただ暴れているのとは全く違うだろう」


 オレたちは戦場の空中にいた。父は翼で、オレは魔法で浮いている。眼下に広がる戦場は魔法や剣が縦横無尽に飛んでいて、ただ火をつけたり思うままに暴れたりするゴブリンの戦場とは大違いだ。


「乱戦で状況がよくわかりません」


「分からなくていい。私が静かにする。お前には通訳を頼めるか? ともあれ、一旦ここを静かにしなくては」


 何をするのかと思い父を見たところ、大きな息を吸っていた。


 ドラゴンの口から灼熱の炎が吐かれる。人間と魔物の軍の境目に吐かれた炎は地面に達し、一瞬で地面が溶岩と化した。


 下を見ると、人間も魔物も手を止めて魔王に注目している。交戦している兵士はおらず、全員が上を見つめて魔王やオレの存在に注目していた。


 オレは魔王の言葉を人間の言葉に換えて話し出す。


「人間ども、この勇者の命は私が握っている。これ以上攻め入るようならこいつを殺す!」


 魔王は領土を荒らされとても怒っている。魔王が口にする言葉には荒々しいものが多かった。


「今すぐ退却するのなら殺さないと誓おう。どうするかはそちらに任せる」


 静かな戦場で言葉を発する人間や魔物は誰もいなかった。

 人間側は脅しに対してどうするか戸惑っており、魔物側は戦線に出てきた魔王の指示があるまで動けない状態だ。


 もう誰も動くことはないように思われ、場にいた全員の気が緩んだその時だった。


「魔王の首、頂いた!」


 突如、人間側から1人の真紅の鎧を纏った騎士が魔王に向かって飛び出してきた。


 空中にいるオレたちと地面の距離は人間のジャンプで届く距離ではない。それにもかかわらず、騎士は魔王の元にまで軽々とたどり着いた。


「やはり赤の勇者がいたか」


「くらえっ!」


 真紅の剣を構え、勇者は魔王に向かって斬りかかる。

 魔王は避けようとするものの、長年本気を出していなかったのが祟り、思うように動けず羽の付け根に一撃喰らってしまった。


「ぬうっ」


 魔王が苦しげに声をあげる。驚いたことに勇者は空中を蹴って移動の方向を変えていた。向きを変更しまた魔王へと突っ込む。


「今度こそ外さねえ!」


 魔王も生半可な対応ではダメだと思ったのか、両腕を前に出し全力で防御態勢を取る。

 今度は勇者の攻撃が弾かれ、魔王にダメージはないようだった。だが攻撃を防いだその一瞬、魔王の気は緩んでしまった。


「しまった!コンランス、落ちた人間を捕まえろ!」


 魔王は攻撃を防ぐのに集中するあまり、尻尾に巻きつけていたリアの存在をすっかり忘れてしまっていた。


「きゃぁぁぁぁぁ!」


 真っ逆さまに落ちて行くリア。オレは彼女を受け止めるために動こうとした時だった。赤い閃光がオレより先にリアのところへ向かう。


「よっと、これで大丈夫だな。魔物に捕まって大変だっただろ」


「レーグさんどうしてここに⁉︎」」


「お前を助けにきたに決まってるだろ」


「ありがとうございます…」


 赤の勇者の腕に抱かれたリアは、嬉しそうな表情をした。


「でも、首輪の呪いのせいで逃げようとすると私は死んでしまうんです!」


「首輪って、これか? こんなの手で壊すまでだ」


 力ずくで引っ張られた首輪は粉々に砕けた。あれは金属製のはずだったのに、とんでもない馬鹿力だ。


「目的も達成したし、オレたちも撤退だな。今日のところは勝負はお預けにしておこうぜ」


 オレたちが予想していた通り、人間の狙いはリアの救出だった。


 そんなことを考えているうちにも、赤の勇者、レーグは彼女を空中で掬い上げ、人間の軍の陣地まで引き返し始めていた。人間の脚力で空中を自在に飛べるわけがない。オレにはその光景がとても信じられなかった。


 父は先程のダメージのせいで動けなくなっていた。


「すまない、先ほどの翼の傷で飛べそうにない。コンランスよ、お前が白の勇者を取り返してこい」


「オレだけで行っても勇者に勝てるかわかりませんが」


「この際仕方ない。お前の他にも誰か行かせたいが、皆戦線で指揮があるなどして忙しい。全力で奴らを止めろ」


 軽く頷き、リアを取り戻すために赤の勇者の後を追った。

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