勇者との戦い

「コンランス、用意はできたか?」

「ああ」


 オレと勇者たちは向かい合っていた。

 レーグは以前と同じ装備で真紅の剣を構えている。

 リアは杖を握りしめ、レーグの後ろにいた。

 フラウとロアはペアのようで、ロアが前衛、フラウが後衛だ。


「それじゃ、始め!」


 レーグが切り込んでくる。

 それに続き、ロアが魔法を打ち出しながら突っ込んできた。


「ロアは黒魔法士じゃないのか?」


 レーグの剣を捌き、後方に飛んでロアの魔法を間一髪で躱す。

 

「そうだが、こいつはフラウの魔法で超強化されてるんだ。それより、しゃべってるなんてお前は余裕だな!」

「精一杯だ!」


 レーグが飛び、水平に斬りかかる。

 それを避けようとした時だった。


「ふん!」

 

 ロアが地面に拳を突き刺す。

 円形に地面が陥没し、オレの足元も崩れた。


 レーグの斬撃への反応が遅れ、オレは肩に軽く一撃をもらってしまう。


「ぐっ!」

「足元には気をつけたほうがいいぜ」


 レーグの声は楽しそうだった。

 まさか、魔法使いが物理的に何かするとは思ってもいなかった。


 ロアがこちらに手をかざす。

 何か嫌な予感がしたので、その場からすぐに離れた。


 その直後、耳をつんざくような雷鳴がとどろき、オレのいたところは黒焦げの焦土と化していた。


「無詠唱の一撃を躱すとは」


 ロアは驚いているようだ。

 彼の動きが止まる。


「魔物は魔法に敏感なんでね!」


 その一瞬を見逃さず、ロアに一撃を見舞う。

 致命傷を与えられると思うほどの威力で剣を振るった。


「あなた、手加減していませんか?」


 実際にロアに入ったダメージは装甲を割いてかすり傷を負わせる程度だった。


「フラウの強化は凄まじいんですよ。並の攻撃ではろくにダメージも入りません」


 オレの剣を掴むと、オレごと片腕で放り投げた。

 足から着地したのでダメージはなかったが、ロアの防御力には予想外だ。


「オレもいることを忘れるなっ!」


 背後からレーグが斬りかかっていた。

 間一髪で振り向いて剣を受ける。

 

「今度は後ろが空いていますよ」


 いつの間にかロアもオレの後ろに立っていた。

 前後を挟まれ、オレは絶体絶命の状態だ。


 オチェアーノの剣を握る力がさらに強くなる。

 剣が強く輝き、剣から溢れた水が水竜の形をなす。

 水の流れがレーグとロアを飲み込み、遠方まで吹き飛ばしていた。


 レーグは木に叩きつけられてすぐに動けそうにないが、ロアは受け身をとっていたのかダメージはなさそうだ。

 

「その剣、どこかでみたことがありますね」

「この剣は人魚の女王から貰った物だ」

「なるほど、あの伝説の剣ですか。実在していたとは知りませんでした」


 ロアはこの剣を知っているようだ。

 後で詳しく聞いてみよう。


 オレがそう考えている間にロアは目前まで肉薄してきた。

 勢いを殺さず右のストレートを繰り出す。

 剣で受けるが勢いを殺しきれず、オレは吹き飛ばされてしまう。


 宙で一回転して足から着地するが、少し痺れた。

 剣がなかったら今頃全身骨折しているだろう。


「この辺りでやめておきましょう。魔王に挑む前に大怪我をしては面倒です」


 ロアは汗を拭ってそう言った。

 フラウとリアはやり合っていないが、2人は後衛で補助専門なのだ。やりあう必要はない。

 

「そうだな。オレも結構疲れた」

「私もです。なかなか楽しかったですよ。

 さてと、レーグを起こすとしますか」


 オレの一撃でレーグは伸びていた。

 今回勝てたのは剣の能力のおかげなので、次からは通用しないだろう。

 たまたま運が良かったとしか言いようがない。


「レーグ、起きなさい。魔王のところへ向かいますよ」

「ん……あっ! まさかオレ気絶してた」

「はい。一撃で伸びてました」

「マジか……」


 レーグが肩を落とした。

 オレに負けたのがそれほど悔しいのか。


 レーグはオレの方を向くと、


「魔王戦ではオレの方が活躍するからな! 今回のはたまたまだ! 図に乗るな!」

「そうする」


 負け惜しみがすごいが、今争うことでもないので特に言い返さない。


「面白かったよ。割といい勝負できてんじゃん。レーグ伸びてたのはダサかったけどね」

「うっせ」

「みなさん大怪我とかしてませんか? 私が回復しますよ」


 後衛2人もこちらへやってきた。

 フラウはレーグがいかにやられたのかを嫌味ったらしく解説し、彼を怒らせている。

 一方リアは一人一人に回復魔法をかけていき、俺たちの傷を癒してくれた。


 オレの怪我はせいぜい切り傷ぐらいだが、リアが手をかざすと一瞬にして傷が消える。

 その上疲労感も一気に消え失せる。


「すごい魔法だな」

「私しか使えない無詠唱魔法です」


 やはりリアは勇者なのだということを再認識する。


「コンランス、その剣見せてよ。さっき面白そうなことしてたじゃん」


 フラウがオレに近寄り、興味心身に剣を見る。

 

「別に構わないが、壊すなよ」

「私がちょっとやそっとするぐらいで壊れる剣じゃないでしょ……って重っ!」

「おいおい。フラウ何やってんだよ」

「そう言うならレーグも持ってみなさいよ」

「オレの力には勇者補正があるんだぞ………って重っ!」


 剣を受け取ったフラウに続き、レーグも剣を持てないようだった。

 フラウに関しては地面から上げることすらできず、レーグは両手で持つのが精一杯という感じだった。


「あなたたちでは扱えません。その剣はコンランス専用のものです」


 そういったのはロアだ。

 

「どういうことだ?」


 オレも初耳だった。

 ラミアはこの剣について碌な説明をしてくれていなかったのだ。


「どういうことか教えろよ」

「そうよ、私たちにも教えなさいよ」

「できれば、私にも教えて欲しいです」


 勇者たちが口々にせがむ。

 ロアはため息をつくと、ゆっくりと話し始めた。


「ある伝説では、人魚が持つオチェアーノの剣は天使のものだったと言われています。その剣は最強の剣であると同時に、天使の力を持つものでなければ扱うことができないと言われているのです」

「オレは魔物で天使ではないぞ?」


 昔の記憶はないが、オレは昔から魔物だ。

 変身魔法はあるが、対象の種族までを変える魔法は存在しない。

 オレが昔天使だったということはありえないことになる。


「それが謎なんですよ。ですが、人魚の女王はあなたに天使の力があると見抜いた。きっと何かあるのでしょう」

「なんだかうやむやだな」

「仕方ありません。わからないものはわからないんですから」

「なにそれ、つまんない。コンランス、未知の力に覚醒する! みたいなことになるんじゃないの?」

「できるか!」


 フラウがそう言うが、オレにそんなことを期待されてもこまる。

 オレはただの魔物の王子であり、伝説の天使ではないのだ。


「ともかく、魔王を倒せば何かわかるんじゃないか」


 レーグがボソッと言った。

 リアは同じく、と言わんばかりに首を縦に振っている。


「そうだな。とりあえずの目標は魔王討伐だ」


 討伐はできるだけ避けたいのだが。

 血が繋がっていないとはいえ養父を手にかけるのは嫌なところがある。

 

「今日は休憩して、明日から魔王城へ向かいましょう」


 ロアの提案で、オレたちは王都周辺で一休みすることになった。


「あの……」


 そこへ1人の兵士が王都のほうからやってきた。


「なにか?」


 オレが応対すると相手は一瞬怯んだ。


「王が、『お前たち、そこでなにをしている。早く魔王討伐に迎え』とお怒りで……」

「すみませんでした!」


 勇者一行は頭を下げ、急遽休憩を取りやめ徹夜で魔王城を目指すのだった。

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