グレムリン討伐
その夜、アンジェルスは一人で建物の外にいた。オレは彼女が見える建物の中から様子をうかがっていた。
アンジェルスが外に出てから三十分。いまだに何も起きる気配がない。
「本当にグレムリンは現れるのか?」
オレは独り言を言う。ゼボットは戦闘時に邪魔になりそうなので、今一緒にはいない。
もう夜遅く、オレはだんだん眠くなってきていた。
「きゃあっ!」
アンジェルスの悲鳴が聞こえ、オレの目は一気に覚めた。
外を見ると、アンジェルスが何かに襲われていた。
頭部にツノが生え、背はとても低い。あれがグレムリンだろう。暗いのでよく見えないが、数は十や二十どころではなさそうだ。
グレムリンが何かしたのか、アンジェルスが気絶したように倒れた。
グレムリンたちはアンジェルスを協力してキャッチすると、どこかへ運び去ろうとする。
「追いかけるか」
足音を消して、オレはグレムリンたちの後を追う。相手はオレに気づいていないようで、振り返ることなく進んでいく。
村を出てしばらく進むと、グレムリンたちは草原に空いた穴の中へとアンジェルスを担いで入っていった。どうやら穴が奴らの住処らしい。
オレが立ったまま入っても頭がつっかえるようなことはなかった。
しばらく進むと、奥の方から明かりが見えてきた。オレは剣を抜き、一気にグレムリンたちの前に出る。
「動くな、動いたやつから殺すぞ」
魔物の言葉でグレムリンたちに話しかけた。
グレムリンたちは状況がよく飲み込めていないようで、全員固まっている。
その隙に穴の中を見回す。半球のドーム状になっていて、とても広い。穴の端に定間隔で松明が置かれ、ドームを照らしている。
よく見ると部屋の隅には人間の姿があった。全員手足にロープが巻かれ、逃げ出せないようにされている。きっとあの中にゼボットの娘もいるのだろう。全員生きてはいるようだ。
「来てくださったのですね!」
その中に一緒に縛られているアンジェルスの姿もあった。どうやら気絶から覚めたらしい彼女はオレに向かって叫んだ。
「まさか人間が俺たち魔物と話せるとは驚きだ」
一匹のグレムリンがオレに近寄ってくる。
オレは魔物なのだから魔物の言葉を話せて当然なのだが、グレムリンたちには変身魔法がかかったオレは人間に見えているようだ。
「オレは勉強が得意でな。少し勉強したんだ」
「勉強でどうにかなる話ではないと思うがな。ところで、ここまでオレたちを追ってきてどういうつもりだ?」
ニヤッと気持ちの悪い笑顔を浮かべ、グレムリンは質問する。
「どうもこうも、人間の仲間を助けにきたに決まっているだろう。そもそも、なぜお前たちは魔界に帰らずここに住んでいる?」
「本当は教えてはいけないが、どうせここで殺すし、まあいいだろう。魔王の王子様に派遣でね、人間をさらってこいと」
オレはそんな命令を下した覚えはない。
グレムリンは何を言っているのか、オレには全くわからなかった。
「お前もコンランス様への土産にするから、死んでくれ!」
目の前にいたグレムリンが合図をすると、一斉に他のグレムリンたちも襲ってきた。
人間だったら対処できないかもしれないが、オレは魔物。グレムリンが何匹こようと相手にもならない。
オレは確実に一匹ずつ処理していき、戦うこと数十分。かすり傷ひとつ負うことなくグレムリンを全滅させた。
最後の一匹が力尽きたのを確認すると、オレは人間を拘束しているロープを一人ずつ切っていた。
「君たちは穴の前で待っていてくれ」
助けられた人間たちはうなずき、穴の前に向かっていく。
残るのはオレとアンジェルスだけになった。
「コンランス様、グレムリンたちが言っていた言葉。あれはどういうことでしょう?」
「オレにもさっぱりだ。あんな命令を出した覚えもないし、殺したグレムリンの中にも顔見知りはいなかった。きっと誰かが嘘をついてオレの名で命令したのだろう」
オレと偽る奴が出てきたとは、厄介な事態になった。
「ここにいても何も解決しない。まずは村へ帰ろう」
「そうですね」
オレは助けた人間たちを連れて村へ帰っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます