また旅へ

 その翌日の朝、オレはゼボットの家に呼び出されていた。


「いやあ、わしの孫を救っていただき、感謝しかない」


「それはどうも」


 オレは生返事をする。


「ごめんなさいね、おじいちゃんはお酒を飲むとすぐ酔ってしまうの」


 そうオレに話しかけたのは、ブロンドの長い髪が印象的な少女だった。


「昨日は私を救っていただきありがとうございました」


 彼女はオレに一礼した。


「いいんですよ。人間、助け合いが大事ですから」


 魔物のオレがいうのもなんだが、と心の中で突っ込む。



「コンランス、といったか。わしの娘を嫁にとらんか?」


「変なこと言わないでよ。お酒の飲み過ぎよ」


「オレにはアンジェルスがいるので。遠慮しておきます」


「そうか、残念だ」


 ゼボットはそう言うとすぐに眠ってしまった。顔はものすごく赤くなっているので、酔い潰れたのだろう。


「とにかく、この村を救っていただきありがとうございます」


 一通り挨拶をすませ、オレは玄関で待っているアンジェルスの元へ向かった。


「コンランス様、ご覧ください。村が賑やかですよ」


「そうだな」


 子供たちが元気に外で遊んでいる。大人も楽しそうに仕事をしていて、初めてこの村に入った時とは大違いだ。


「悪くない光景だ」


「同胞の魔物を殺し、敵の人間を助けたのに?」


「そうだ」


 アンジェルスの言うこともわかるが、オレはこの村を救ったことを誇らしく思っていた。


「早く物資を揃え、王都へ向かおう」


「そうですね。早いに越したことはありません」


 オレたちは村の商店で旅に必要なものを揃え、ついでに商人に王都への行き方を聞いた。


 ここは王都からとても離れているということだった。難破した船は予想以上に遠いところに流されてしまったようだ。


「何か近道とかはないのか?」


「私の知る限りでは……」


 商人は申し訳なさそうな顔をした。


「情報だけでも十分ありがたい」


 オレたちは商人と別れ、村を後にした。



「またしばらく歩くことになりそうですね。いくら魔物の私たちといっても、とてもきついものがあります」


「そう文句を言うな。乗ってきた船が壊れた以上、オレたちは帰れないんだ。進むしかないだろう」


 不満を言いたそうなアンジェルスを黙らせ。王都に向かって進んでいく。


 あたりの景色は草原から深い森へと変わり始めた。

 ほのかに葉の間から差し込む光が綺麗だ。それにあたりには生き物の気配がなく。安心して進めるだろう。

 アンジェルスも景色が気に入ったようで、先ほどまでの愚痴は収まっていた。


「この森を抜ければ王都が見えるらしい」


 商人に聞いた情報をアンジェルスに伝える。


「それなら早く行きましょう。王都まで行くことができればもう歩かなくて済むのですから」


 小走り気味に森の中の道をアンジェルスは進み始める。


「待て、迷子になるぞ」


「私たちは魔物。お互い魔力で相手を感知できるでしょう?」


「それはそうだが……」


 ここは人界。万が一に備えて二人が離れるようなことは避けたい。

 そんなことを考えている間にもアンジェルスはどんどん進んでいく。オレはその姿を見失わないように走って追いかけるのだった。


「もう疲れました……」


 道の真ん中でアンジェルスはへばっていた。走りすぎで体力を消耗してしまったようだ。


「そんなに走るからだ。まだ道のりも長いし、しばらくここで休もう」


「私の体力が無いせいで……すみません」


「オレもちょうど疲れていた。気にすることはない」


 二人で腰を下ろし、村で調達した食べ物や水を分け合う。

 今回は多めに買ったので、あと一週間分以上はある。商人の話通りなら十分に足りるだろう。

 今は昼を過ぎたくらいだが、休憩がてらオレたちは木の根を横にして眠り始める。

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