打ち解けあった仲
一ヶ月経過する頃には、リアは一通りの従者としての役割をこなせるようになっていた。
「掃除についても問題は何もない。よくここまでやった」
「私も初めての経験でした。人界にいた頃は神官の仕事ばかりで肉体労働はしたことがなかったですから」
捕虜となった今では帰れない日々を思い出し、リアは遠くを見て悲しんでいるようだった。
「人界での生活は楽しいものなのか? オレは人間ではないから向こうの生活はよくわからない」
「こちらの生活とあんまり変わりませんよ。仲のいい人一緒にいて、ご飯の食べて、寝て…とても楽しい毎日です…結構頻繁に勇者として悪魔討伐の仕事がありましたが、勇者パーティーのみんなはとても優しくて、とてもいい思い出です」
「勇者パーティーについて教えてくれないか?」
リアが勇者パーティーにいたと聞いて、オレはチャンスだと思った。勇者についての情報が聞き出せれば今後魔物が有利に立ち回ることができる。
「できれば言いたくありません… 友人を売るような真似はしたくないんです」
リアは根っこからの聖人らしい。拷問で聞き出す手もないわけでもないが、今後仲良くなりゆっくり聞き出す方がいい情報を得られそうなのでやめておく。
「それなら仕方ない。魔物でも仲間を売る奴は最低だと言われるからな。人間でもそうなのだろう」
オレは部屋を見渡す。魔物の従者が掃除していた頃よりも部屋は綺麗になっている。やはりリアを従者にしてよかったと思えた。
「お前は魔物の従者よりよっぽど有能だ」
「そんな冗談を言わないでください。私より勝手のわかる魔物の方々の方が有能ですよ」
「そんなことは全くない。魔物でもお前ほど有能のものは数えるくらいだろう」
「褒めてくださってありがとうございます」
リアは嬉しそうだった。
「褒美を与えたいくらいだ。何か欲しいものはないか?」
「私なんかにそんなことをしていいんですか? 私は人間ですし、ただの虜囚ですよ?」
「そうかもしれないが、少なくともこの部屋で立派な働きをしている。それに見合った報酬が与えられるのは当たり前だ」
「でしたら、私を人界に帰してください」
「すまない…」
「そう言うと思いました」
正直その頼みは言われる予感がしていた。けれど無理なものは無理である。
ため息をつき、リアは一冊の本を指さした。
「この本に似た本をください。それだけで十分です」
その本はいわゆる画集であり、魔界の風景を描いたものだ。文字はほとんど書かれていないので見るだけで十分楽しめる。
「わかった。できるだけ多く用意しよう」
「ありがとうございます」
互いに見つめ合って笑う。オレがリアを従者として迎えてから、彼女と笑い合う時間がとても貴重なものに感じていた。
「ところで、この部屋にいて退屈だと思ったことはないか?」
「いえ、ここには人間の私でも楽しめる本が沢山ありますし、不思議な魔法の道具もあって退屈しないです」
「それならいい」
リアは外へ連れて行けない分、この部屋での暮らしをいいものしてやりたい。ここ最近オレはそんなことばかり考えていた。
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