初仕事

「準備ができた。今そこから出す」


 翌日、オレはリアのところに服などを持ってきた。


「やっとここから出られるんですね。なんだかもう何年も閉じ込められていたように感じます」


「せいぜい10日程度しか幽閉されていなかったぞ」


 オレは牢の鍵を開け、リアの拘束を解いた。リアは大きく背伸びをして体を伸ばす。

 一息ついたところで、オレは持ってきたものを渡す。


「普段用の服だ。毎日このような服を着てもらうことになる」


 オレが持っていたのは、白のローブ。魔王城には悪魔の従者が着る服しかなく、人間用のものはなかった。リアが元々着ていたローブは魔法が付与されていたので、普段は着させられない。それで代わりに魔法がかかっていないそっくりの服を用意した。


「私のローブ、ではないですね。手にしてもあまり力を感じません」


「お前のローブには魔法防御等の付与効果があったからな。ただの従者にそんな高価なものを着させているのもおかしい。だからそれで我慢しろ」


「囚人服に比べるとすごく立派です。私、囚人服のまま働くことになるのかと少し不安だったんですよ」


「どうしてだ?」


「だって…この服、所々破れて肌が見えてしまって…」


 言われてみれば使い古されたせいかあちこちが破れていた。確かにこれは露出が多く恥ずかしくなるのも納得だ。


「これから着替えますし、あまり直視しないでください」


 リアは顔を赤らめ不満げにいう。


「わかった。しばらく見ないでおこう」


 オレが後ろを向いてから数分でリアは着替え終わった。


「着替え終わりましたよ」


 そう言われて振り向くと、出会った時とほぼ同じ格好のリアがいた。体を洗って、さらに杖があれば全く同じだっただろう。


「とりあえず、この格好のままでいいですか」


「それでいい。あと、これを首につけてもらう」


 銀製の首輪を彼女に見せた。


「どうしてもつけないといけないんですか?」


「ああ、これが父と交わした条件だからな」


「断ったらこのままここに閉じ込められるんですよね…なら、仕方ないですね…」


 オレはぶつぶつと文句の言うリアの首にそれをはめた。


「別に逃げようとしなければどうってことのないものだ。ただ逃げようとしたり、オレを殺そうとすれば死の呪いが発動する」


「それ以外基本的には何もないということですね?」


「そうだ」


 多少不満は残るものの、リアは納得したようだった。


 その後、彼女を牢獄から連れ出してオレの自室へと連れて行った。


「基本的にこの部屋で生活してもらうことになる。部屋の前にはオレの護衛がいるから、オレと一緒でなければ基本出られないと思ってくれ」


 オレの忠告よりも部屋の中にリアは興味があるようで、あちこちを見回している。


「すごく綺麗なお部屋ですね。金や銀の家具が沢山」


「当たり前だ。オレは魔界での王子として生活している。これくらい立派な部屋でないといけないのだ」


「なんにしろ、殺風景な牢屋暮らしよりは楽しそうですね」


 リアはそういってオレに笑いかけてきた。その純粋な笑顔を見ると、オレまで楽しそうな気がしてしまう。


「そんなに笑いかけても何もないぞ」


「それぐらいわかっていますよ。でも、せめてここでの暮らしを楽しみたいんです」


「勝手にしろ。だが、オレの部屋のものになんでも触れるなよ。対人間用の装備もあるからな。触れると死ぬぞ」


 興味深そうにオレの部屋をうろうろし始めたリアに注意する。手当たり次第触ろうとするリアはなんだか危なっかしい。


「大丈夫ですよ。今は従者でも私は勇者だったんです。呪いぐらい簡単に見抜けます」


 自信満々に胸を張ってリアは答える。ふとその足が本棚の前で止まる。


「いくら見ても魔物の文字が読めません…」


 リアは本棚を見て渋い顔をする。オレの本棚にある本は魔物の文字で書かれている。人間のリアに読めるはずがない。


「それは諦めろ。本の中には挿絵が入っているものもあるから、本は挿絵を見るだけで我慢してくれ」


「せっかく魔物の本が読める機会なのに…」


 リアは読めないことを悔しがっていた。

 結局その日リアは一日中オレの部屋の中を色々探索していた。魔物のものは人間にはとても目新しく映ったのだろう。とても楽しそうだった。

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