不思議な森
夜中になり、あたりは真っ暗になった。
「今日はこれ以上歩けないな。日が昇ってから進もう」
腰を下ろし、一休みする。
あたりに獣の気配はない。寝ている最中に襲われる心配はなさそうだ。
枯れ枝を集め、火をつける。
火は赤々と燃え、オレの体を僅かながらも温めてくれた。
しばらくしたところで火を消し、木の幹にもたれかかって眠り始めた。
静かな森も眠っているようだった。
目が覚めると、オレは洞窟の前にいた。
「オレは森の中で眠ったはずじゃ……」
昨日のことははっきり覚えている。
洞窟を抜けたオレは北に進み、日が暮れ出したところで一休みして眠った。
だが、今起きてみると洞窟の前にいる。
頬をつねってみると痛い。間違いなくここは現実だ。
「お前、昨日洞窟にいた奴だよな?」
洞窟からレーグが姿を現した。その身なりは昨日と全く同じで、装備も綺麗なままだ。
オレは首を縦に振ってレーグの質問に答える。
「道が分からなくて困ってたんです」
「そうか、どこに向かうんだ?」
「リーズレットというところに」
一瞬レーグのまとう空気が張り詰めた気がした。
その緊張もほんの一瞬で、すぐになくなる。
「あそこにどうやって行くかっていう説明はめんどくさいんだよな…… いいや、オレが直接案内してやる」
「勇者様が? あなたは魔物探しで忙しいはずでは?」
もしレーグと一緒に行動ということになったらオレの正体がバレる可能性が上がる。それだけは避けたい。
「そんなこと気にするな。探しているのは弱い悪魔だ。片手間で倒せる」
オレのことをそこまでバカにされるととても腹たつが、ここで正体をバラすわけにはいかない。
「そんなことを言って、もしその悪魔に負けたら勇者様はバカにされますよ」
「万が一でも負けることはない。それとも、オレの実力を疑ってるのか?」
「いえ、そういうわけでは……」
少しからかってみたが、ダメだった。
「くだらない話はそこまでだ。リーズレットの村に向かうぞ」
レーグはオレを先導する。オレはレーグの後を追って進んでいくのだった。
「ところで、お前の名前は? よく考えると今まで聞いていなかったな」
「ええと、コラスです」
名前を一文字飛ばしにしたものだ。深い意味はない。
「そうか、コラスか。なんだか探してる魔物の名前に似てる気がするな」
「気のせいでしょう」
こいつ、意外と鋭いな。
だが、正体がバレてはいないようだ。次に偽名を考えるときはもっといいものにしよう。
「この森は神聖な森でな、邪悪な力を追い返す力が備わっているんだ。もし魔物がこの森に入ったとしたら、入った所に戻されてしまう」
「なるほど……それで……」
「何がなるほどなんだ?」
「なんでもないです」
オレが森の外に出されたのはオレが魔物だったからというわけだった。だったとしたら、オレはこのまま歩き続けていても村にたどり着くことはできないのではないか。
「もし魔物がこの森の中に入ったらどうなるのですか?」
「まず追い出されるだろうな。それでも侵入しようものなら攻撃してくるだろう」
レーグがそう言ったとき、どこからともなく矢が飛んできた。
レーグは剣でそれを迎え撃つ。剣のまとう炎によって矢は消し炭になった。
「なんだ? 誰か奇襲でもしようとしてるのか?」
おそらく森がオレを狙ったものだろう。だがレーグはそんなことに気づくことなく、あたりを警戒している。
今度は地面が盛り上がり、何体もの人型のゴーレムが現れた。
「なんだこいつ、面倒くせえな!」
力任せに振るった剣でレーグはゴーレムを片っぱしから木っ端微塵にする。
ゴーレムは元の土に戻り、動くことはなかった。
「さっきからなんだ? 誰か森を使ってオレたちを狙ってるのか?」
「いや、この森がオレたちを狙っていると思います」
「なんでだ? ここに魔物はいないはずだろ?」
この場においてもレーグはオレが魔物だということは疑っていないようだった。
「私も協力します」
「それは助かる。オレも少し疲れてきたところだ」
このままレーグが戦っているのをみててもいいが、それではいつまでもリーズレットにたどりつけない。
敵に手を貸すのは気分が乗らないが、この際仕方がない。
戦うこと数時間。ようやく攻撃が弱まってきた。ゴーレムや矢が少なくなった。
「やっと終わったか。ここまで戦ったのは久しぶりだ」
レーグは何故か楽しそうだった。何時間も戦闘していたのに剣は衰えていない。流石は勇者と言ったところか。
「コラスはどうだ? 怪我とかないか?」
「はい、疲れましたが外傷はありません」
オレの体力はかなり厳しかった。もっと鍛えないとレーグには勝てないようだ。
「にしても、今日はどうかしてるな。この森が人間を襲うことは今までなかったのにな」
「さあ、なんででしょうね」
オレが魔物だから、とは答えない。
「ともかく、先に進みましょう」
「そうだな。また襲われたら面倒だもんな」
オレたちは小走りで森の中を抜けていく。
どこからか視線を感じるが、きっと気のせいだろう。
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