従者の勇者
勇者の用途
船が魔物の大陸に着くと、オレはすぐに宮廷にいる魔王に謁見した。魔王の玉座の下には、いつものように兵士たちが護衛に当たっていた。
「白の勇者を捕まえたそうだな」
「はい。特に抵抗もなくあっさりと捕まえることができました」
船から降りた後、白の勇者はオレが信頼できる魔王の部下に渡した。城の中にある牢獄に繋いでおく、とそいつは言っていたので、今頃はそこにいるだろう。
「白の勇者は回復魔法に特化しているだけからな。攻撃手段は並の人間程度しかない。とはいえ、勇者の捕獲は魔王の息子として十分な手柄だ」
父は喜んでいるようで何よりだ。オレも、父の期待に応えられて満足している。ここでオレがずっと思っていたある疑問を尋ねた。
「ありがとうございます。ところで、彼女の処遇はどうしましょう?」
「お前に任せるから好きなようにしろ。ただし絶対に殺すな。勇者は人間との交渉に使えるいい道具だ。今まで交渉は会話が通じずできなかったが、今回はお前がいるからな」
今まで人間と魔物の交渉は言葉が通じないと言う理由でできなかった。しかしオレは魔物の言葉も人間の言葉もわかるので、交渉の手段ができたと父は考えているようだ。
「分かりました。オレの好きなようにさせてもらいます」
「拷問でもするか?」
「オレにそんな趣味はないです」
父の冗談をあしらうと、一礼して宮廷を出た。
自室に戻ると、連絡係になっている魔王の配下がいた。
「王子様、白の勇者は地下の牢獄に幽閉しておきました」
「わかった。後で見にいく」
オレがそう言うと、配下の魔物は部屋を出て行った。
ふと部屋の隅においてある彼女の杖に目をやる。彼女の頼みに応えられるように、杖はオレが大切に保管することにした。これなら杖が壊れる心配はない。持ち主と離れ離れになった杖はどこか寂しそうではあるが、杖自体に変化はない。
手に取ってみると魔力が溢れてくるのがわかる。
「不思議な温かみを感じるな」
そうつぶやいて杖を置き直すと、オレは地下の牢獄へと向かった。
彼女が幽閉されていたのは、城の牢獄の最下層だった。
逃げにくい位置に幽閉されていることから、いかに彼女が厳重に扱わなければならない存在かわかる。
牢の前に来ると、彼女は牢の奥の壁に両手首を鎖で繋がれていた。服もローブから茶色の薄汚い服に変えられていた。一見したところ目立った外傷はなかった。
「よう。調子はどうだ」
「魔王の王子様…ですよね。私に何か用ですか?」
彼女はこちらに顔を向ける。体に汚れはついていても、瞳の光は以前のままだった。
「お前の処遇はオレに任されることになったからな。一度様子見に来ただけだ」
「私はずっとここに監禁されるものと思っていましたけど…」
「魔物といえどもそんな外道な真似はしない。少なくともオレはな。信用してくれ」
「それなら信用させていただきます」
あまりにもあっさりすぎる返事に驚きを隠せない。魔物を信用することになんの疑問を抱かないとは。予想外の事態だ。
「なぜそう簡単にオレを信じることができる?」
オレは悪魔で相手は人間だ。少なくとも敵同士。信じられる根拠などあるはずがない。
「今まで、私はたくさんの悪魔と戦ってきました。どの悪魔も同じで、人間を皆殺しにすることばかり考えていました。しかし、あなたは悪魔でありながら私を殺しませんでした。だから他の悪魔とは違い無差別に人を殺すような悪い悪魔だとは思えないからです」
こちらを見てはっきりと言う。面を向かって言われたオレは気恥ずかしくなり目を逸らした。なんとなく話題を逸らす。
「お前の名前は?」
よく考えてみると、これまで彼女の名前を聞いたことは一度もなかった。
「リアです」
「リアか、覚えておく。ところで、リアはどうなるのが望みだ? ずっとここに監禁されたままで良いか?」
「できれば人間のところに戻してほしいですけど、無理ですよね。あなたに任せます。私には決定権がありませんから」
「そうか。オレにも今すぐには決められない。だからしばらくしてから言い渡す」
「分かりました。お待ちしてます」
特に返事もせず、オレは牢の前を去った。
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