元凶

「ここら辺で降りましょう」


 オレたちは船から降りる。

 久しぶりの魔界だ。


「ここはどのあたりかわかるのか?」

「ああ、ここは見覚えがある」


 確か魔界の北東の方だった気がする。

 南西に進んでいけばおそらく魔王城が見えるだろう。


「オレが先頭でいいか?」

「いいのではないでしょうか」


 ロアが返事をする。


「お願いします」

「コンランス、お願いね」

「お前に任せる」


 他の勇者たちの許可も取り、オレが先頭で進むことになった。


 進むこと数時間。

 魔王城までは数日はかかるので、走ったところであまり意味はない。

 そんなわけで、オレたちは急がず慌てず、のんびりと進んでいた。


 オレたちがいるのは森林地帯。

 草原や町を通るルートがないわけでもないのだが、あまり目立ちたくない。

 その点、森林は隠密性が高く、手段で動いてもバレにくい。


「なあ、あそこに魔物がいるぞ」

「どこだ?」


 レーグの指さす方向を見る。

 そこには下半身が蛇で、上半身が人間の魔物がいた。

 後ろ姿なので顔は良く見えないが、髪が長いことからするとおそらく雌だろう。


「まずいな。ここまま進むとこちらがバレる。

 できれば素通りしたいのだが……」

「できないでしょうね」

「なら倒すか?」


 リアの言う通り、倒さずに通るのは不可能だ。

 それを聞くとレーグは仕留める提案をする。


「だが、あいつはオレと同じ魔物だ。できるだけ殺したくない」

「お前の言いたいことはわかるが、こっちも魔物に人間を殺されてるんだ。今回は多目に見てくれよ」


 はい、とは返事ができなかった。

 人間と魔物は殺し合いの関係だ。

 今回はたまたま魔物が人間に殺されただけ、と認めるのは簡単である。

 とは言っても、魔物であるオレが仲間を殺されるのを認めることを容易く認められるわけがなかった。


「ロア」


 レーグはロアに目くばせする。

 ロアは何か納得したように頷くと、いきなりオレを腕で押さえつけてきた。


「なんだ?」

「いいからそのままにしていてください」


 オレが状況を飲み込めない間にレーグは魔物の方へと飛んでいく。


「レーグ、やめろ!」


 ロアの拘束を解こうとするが、筋肉のパワーは凄まじく、びくともしない。

 オレの叫びも虚しく、レーグは魔物の心臓がある位置を的確に斬った。


 勝利を喜ぶでもなく、レーグはこちらに戻ってくる。


「オレは魔物を倒した。その時、コンランスは動けない状況だった。だからお前があいつを助けられなかったのは仕方がない。そうだな?」


 ロアはオレを押さえつける腕を持ち上げた。

 振り返ると、どこか暗い顔をしている。

 どうやらレーグとロアはオレの罪悪感が薄まるように取り計らってくれていたようだ。

 申し訳なさやら、感謝やらで気持ちが定まらなかった。


「なんだか、すまない」

「いえいえ」

「こればっかりはしゃーない」


 ものすごく暗い雰囲気になってしまった。

 

「コンランスさん、元気出してください」

「そうそう、これは不慮の事故なんだから」


 リアとフラウがオレに近づき、慰めの言葉をかけてくれる。

 いつもは茶化すフラウまで今回は真面目だ。

 

「早く進もう」


 魔物の死体を横目に、オレたちは進み続ける。


 日は傾き出していて、あたりは暗くなり始めていた。


「この洞窟で休みませんか?」


 リアの視線の先には、崖にできた洞窟があった。

 岩石に穴が開いてできたもののようで、頑丈さには問題なさそうだ。

 大きさも、オレたち五人が余裕で入れそうだ。


「魔物に襲われると面倒ですからね。私は賛成です」

「オレも構わない」

「私も」


 勇者たちの視線がオレに集中する。

 オレの返事を待っているのだ。


「いいんじゃないか」


 オレたちは洞窟で夜を明かすことになった。


 洞窟の入り口の見張りは交代で行う。

 ロア、レーグ、オレの順に行うことになった。


「それでは見張りに行ってきます。ゆっくり休んでくださいね」

「頼む」


 洞窟の奥で、焚き火を作ってオレたちは休んでいた。

 ロアは早速入り口へと向かう。


 他の勇者たちはもう寝かかっていた。

 フラウはすでにいびきをかいている状態だ。


 あいつが見張りをしているなら魔物が突撃してくることもないだろう。

 壁にもたれかかり、仮眠をとった。


「おい、お前の番だ」


 まぶたを開けると、レーグの顔がすぐ近くにあった。

 どうやらオレのみはりの時間になったらしく、起こしに来たようだ。


「ああ、すぐにいく」

「頼むぞ」


 頭を振って眠気を飛ばしオレは入り口へと向かった。


 外は晴れていた。

 魔物の気配も一切しない。

 この様子なら何事もなく無事に仕事を終えることができそうだ。


「にしても、暇だな」


 見張りを始めたはいいが、近くには木々しかない。

 動くものはなく、なかなか退屈だ。


「コンランスさま、ご機嫌はいかがですか?」

「誰だ!」


 急に人の声が聞こえた。

 声の高さからして、女性であることには間違いない。

 だが、今まで気配は全くしなかったのだ。

 

 オレは剣に手をかけ、迎撃体制をとる。


「そんなに警戒なさらなくても結構ですよ」

「お前は……」


 森の中から現れたのは、今回の騒動の元凶、アンジェルスであった。

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