二度目の王都

 次に目が見えるようになった時、オレたちは見知らぬ海岸にいた。

 太陽は高く登っていて、おそらく昼ぐらいだろう。

 

「私、ここ知ってます」


 リアが知っているということは、どうやら本当に人界に来たようだ。


「あっちに数時間歩けば王都にたどり着けるはずです」


 リアが指さした方向には道があった。

 馬車が三台ぐらいすれ違っても問題なさそうな道で、とても広い。

 人が何人も行き違っていて、とても使われている道だった。


「あれが王都につながる道か?」

「はい」

「とはいえ、王都に向かってどうする? オレたちは敵だらけだろ?」


 オレは王直々に指名手配を受けていて、追われている身だ。

 のこのこと王城に入ったら即刻捕縛からの処刑が目に見えている。

 

「私が一緒に行って、なんとか説得します」

「できるのか?」

「できるかわかりませんが、やるしかないでしょう?」

「それもそうだな」


 道を通ると人目についてしまい、王城にすら辿り着けなくなりそうなので道なりにある森の中を進む。


 盗賊に何人かあったが、声を出される前に気絶させた。


「手際がいいですね」

「人魚の村できっちり鍛えたからな」

「実は、私も鍛えてきたんですよ」


 ふん、と意気込むリア。

 体つきが華奢なせいで、どうしても強そうには見えなかった。


「私のこと馬鹿にしてませんか」

「……すまん」

「本当に鍛えたんですからね⁉︎」


 杖をブンブンと振り回し、オレの背中にぶつけてくる。

 痛くはないのだが、気持ち良くもない。

 

 数発ぶつけたところでリアは疲れてしまったようで、杖を振り回せなくなった。


「はぁはぁ……」

「本当に鍛えたのか?」

「私が鍛えたのは魔法の方です」


 嘘をついているようではなかった。

 彼女なりに特訓していたのだろう。


 森の中を進み、夕方になる頃には王城が見えるところまでたどり着いていた。

 王城の周りは草原なので、見晴らしがいい。

 魔物であるオレはどうしても目立ってしまうので、ここからオレは進めなくなっていた。


「さて、どうしたものか」

「走ったらどうですか?」

「白の周りには通行人もいるし、門には見張りがいる。真正面から突撃してもバレるだろう」


 こんな時に変身魔法があれば便利だなと思う。

 だが、あの魔法はアンジェルスしか使えないので今考えてもどうしようもない。


「私だけ王都に入って服を買ってきます。コンランスさんはここで待っていてください」

「大丈夫か? お前がオレについてきていることはもうバレてる。もし誰かに問い詰められたら終わりだぞ?」

「わかってます。ですが他に方法がないでしょう?」

「……そうだな」


 いくら考えても他に方法は思い浮かばない。

 ここはリアの案を受け入れるしかなさそうだった。


「頼む」

「頼まれました。杖をここに置いていくので、持って置いてください」


 杖を持っていくとバレるという判断だろう。

 リアから手渡しで杖を受け取る。


 杖の魔力は相変わらず凄まじいものだった。


 リアはもう王都に向けて歩き出していた。

 振り返ることなく、真っ直ぐと進んでいる。


「頑張れよ」


 その後ろ姿に、オレは励ましの言葉をかけた。


「遅いな」


 もう日が出てから数時間は経っている。

 服を買って戻ってくるだけならもう終わっていてもおかしくない時間だ。

 それなのにリアの姿はどこにも見えず、戻ってくる気配もなかった。


「まさか、捕まったのか……?」

 

 最悪の予感は現実のものとなった。


 さらに数時間後、リアが誰かに連れられて戻ってきた。

 真紅の鎧に身を包み、右手には剣を携えている。

 左手には、リアが捕まっていた。


「お前、なんで戻ってきた?」


 声はとても低く、聞いた者によっては腰が抜けそうなほどだ。

 怒りの感情がはっきりと現れていた。


「コンランスさん、逃げてください!」

「お前は黙ってろ」


 リアが叫ぶと同時に、レーグは脇腹に一撃を見舞う。

 気絶するには十分な威力で、リアはぐったりとして動かなくなった。

 おそらくだが、死んではいないだろう。


「さて、じっくり話を聞こうか、まさか逃げるというつもりじゃないだろうな」

「当然だ。リアを置いて逃げれるわけがない」

「だろうな」


 兜の下の表情は読めないが、鼻で笑っていたのはわかった。


「ここでお前を殺したいところだが、王からお前を生捕にしてこいという命令が出ている。一緒についてきてもらおうか」

「断る」


 レーグはその答えを予想していたかのように、間髪入れず話し出す。


「リアを殺すと言ったら?」

「仲間を手にかけるのか?」

「こいつは元仲間だ。一度は見逃してやったが、二度目はない。それに今回は王に命令されているし、見逃したらオレがやばいことになる」

「わかった。同行しよう」


 レーグにさからう方法はなかった。

 オレはレーグの後を歩いて王都へとはいった。


 王都の人間は魔物のオレを見ると、大声をあげて逃げ出したり怒声をあげたりする人々がほとんどだった。


 おかげで道が空いていたので、オレたちは真っ直ぐ王城へ向かうことができた。


「お前すごい怖がられてるな」

「魔物なんだ。当然だろう」

「何だか慣れているな」


 長いこと人界に潜伏していたのだ。

 人間が魔物に対してどんな感情を持っているかなどはっきりとわかる。


 王城に着くと、何人もの兵士に出迎えられた。

 全員が武装していて、こちらに剣を向けている。


「随分物騒な出迎え方だな。これが人間の礼儀なのか?」

「そうだな。魔物に対してはこうやって出迎えるんだ」

「結構なことだ」


 皮肉を言って見たが、レーグはあっさりと返してきた。

 いつもはさまざまな人がいるであろう場内も、兵士しかおらず、全員が武装している。

 

 王が待つ部屋の前にたどりつくと、レーグが扉を開けた。

 剣で部屋の中を指す。

 オレから入れということだろう。


 指示された通りにオレは王の待つ部屋へと入った。

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