ナギさんと共に、浩岳高校男子の共有ロッカーまで戻ってきた。

 一応女子であるナギさんに、ロッカーの事を知られるのはルール違反だ。しかし、この際構ってはいられない。

「千円くらいか。遠くに行けない訳じゃない」

 ロッカーには本来募金箱が置いてあり、服を借りた奴は気持ち程度のお金を入れる。それが無くなっているので、状況的に八足が持って行ったと考えるべきだろう。

 なら八足は服もお金も持っている状態で、警察が思うよりも容易に遠くへ行ける筈だ。

 とはいえ、お金はあっても千円程度だろう。

 そのお金を使って、思っているより遠くに逃げたと言う所か。

 でもどこへ?

 家や知り合いの所には、警察がいる筈。

 ならどこへ?

 駅に向かうと監視カメラに写ってしまう。

 顔を隠せばカメラには写らずに通れる気はするけど、怪しいことこの上ない。

 なによりカメラの避けて歩いてきた八足が、服を着たからと言って写る事を許容するとは考えにくい。

「……こっちならカメラに写らないか」

 ロッカーからカメラの無い方向に進む。

 カメラを見付けては、往ったり来たりを繰り返し。

 ようやくそれらしい道筋が見えてきた。

「バスか」

 駅の裏手に存在するバス停付近には、監視カメラが見当たらなかった。

 八足が監視カメラを避ける動きを続けていれば、ここに辿り着くと思われる。

 バスなら、千円あればそれなりに遠くに行ける筈だ。

「問題は何処に向かったのか、か」

 バス停は複数存在し、それぞれのバス停にまた複数のルートが設けられていた。

 中心部を走るルートや住宅街に向かうルート、駅の付近を一周するルートなど様々な道順が存在する。

「八足はバスに乗ったのか?」

 バス停の時刻表とにらめっこしていると、今まで黙っていたナギさんが口を開いた。

「可能性は高いと思います。でも、どのバスに乗ったのかが、絞り切れません」

「八足なら、8番のバス亭に乗ったんだろ」

「8番?」

 突然何を言い出すのかと思いつつも、8番のバス停を確認する。

「ドラマの見過ぎじゃないですか?」

「八足は感動屋だろ?」

『行名山行き』と、8番のバス停に書いていた。

 御厨みくりが死んだ/殺された場所である。

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