「いや~、良い物貰えたな」

 薬師寺の部屋から出て、汚れた階段を下っていく。

 八足はやたらと上機嫌だ。

「貰った小瓶の事か?」

「ああ!『劣情』の小瓶の話は聞いたことがある。女に飲ませれば、媚薬みたいに使えるらしいぜ!」

 つまり強制的に欲情させる訳だ。

「媚薬はまだいいけど、それは感情を発生させる薬だ。やり過ぎだろ」

「相手も劣情を催しているのは確定なんだから、同意の下じゃんか!なんの問題もなし!」

「問題にしてやるから安心しろ」

 問題は有る無しではなく、するしないでカウントする。

「あーあー、つまらない奴だなー。色気のある人生の方がいいじゃねーか」

「いーな、色気のある人生。八足の言ってるのは、色欲に塗れた人生だけどな」

 八足は面倒になったのか、はいはいと受け流し、小瓶をポケットに入れる。

 廃ビルから外に出た所で、気になっていた事を尋ねた。

「薬師寺って、男なのか?女?」

「あ?お前薬師寺さんに、性的な興味あんの?」

「ない」

「興味ないなら、男でも女でもどっちでもいいだろ?」

「そんなもんか?」

「そんなもんだ」

 女にだらしのない八足が言うのだから、それなりに真実なのだと思う。

「ま!薬師寺さんはピーもピーも無いらしいけどな」

 性別が無いのか。

「薬師寺さんがそれをどう考えてるか分からないから、面白がって言うこっちゃないけどな」

 八足が大笑いする。

 それが何の感情に起因するのかは測りかねる。

 ――その時だ。

「待てや!浩岳の餓鬼ども」

「ぐ!!」

 後ろから脇腹に蹴りを入れられた。

 意識が飛びそうになる、鉛のような思い蹴り。

 後退して後ろを振り向く。オニさんと呼ばれた男と、黒いジャケットの男4人がいた。

「あ―――」

 内臓にダメージを食らったのか、立っていられない。

 両足から力が抜け、片膝を付いてしまう。

「とりあえず、喋れる程度にぼこしと、け!!」

 オニさんと呼ばれた男性に、サッカーボールの様に顔面を蹴り飛ばされる。

 がくんと意識が途切れる直前。

 八足が4人の男達にタコ殴りにされているのが目に映った。

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