御厨みくりは良く学校をさぼっていた。

 遅刻してくる事もしばしばで、来てもよく居眠りしていた。

 典型的な不良ギャルと言う印象。

 同じクラスではあったが、自分とは関わりの無い遠い存在だと思っていた。

「は?なんで毎日学校来ないといけないの?」

「何言ってんだ!当たり前のことだろ!」

「こっちが高校側にお金払ってんでしょ?価値無いと思ったら、来なくていいじゃん」

「何滅茶苦茶言ってるんだ!大体払ってるのは親だろ!」

「親が払ってるか私が払ってるかは、家庭の問題じゃん?支払われる側が、お金の出所関係あるの?」

「こいつは……!」

 その日も御厨は3限目終わりに登校してきた。

 たまたま担任の田小山先生の授業だった事もあり、そのまま説教に突入した。

「横山を見て見ろ!高1の時から無遅刻無欠席だぞ!」

「なに?皆勤賞が凄いとかいう話?」

「ああ、凄いだろうが!」

 横山は真面目な奴で、朝一番に教室に着く。

 成績が特別いい訳でもないが、田小山先生のお気に入りだ。

「皆勤賞が凄いって考えって、日本を悪くしてるっしょ?」

「は?」

 御厨の物言いに、田小山先生は目を丸くする。

「皆勤賞ってさ、能力関係なしに、正直誰でもできるじゃん。つまり、能力の無い人でも評価される数少ない方法な訳でしょ?そんなので能力の無い人が誉め讃えられて、その気になって。社会に出ても『休まない奴が偉い!』みたいな学生気分が蔓延して、国際競争力が落ちるんじゃん」

「そら……それは違う!」

 御厨は意外と弁が立つ。

 典型的な社会に出たことない系教師の田小山先生では、上手く説明する事は出来ないだろう。

「おい、御影!この不良娘に説明してやれ!」

 こっちに振るな……とは口にできない。

「御厨、お前はサッカーが好きで、試合を見に行ったりするだろ?」

 仕方なしに話し始めると、御厨は体ごとこちらに向いた。

「そうだけど?」

「御厨はサッカーにお金を払っている側だけど、『物を投げない』『競技場に下りない』なんかの規則を守って観戦している筈だ」

「そうだけど」

「それと同じで、学校にもお金を払ってはいるが、規則も守るべきなんだ。そして田小山先生の言う『親がお金を払っている』という話は、『学校が商売をしているのはお金を払っている親』だと言う事に繋がる。つまり親が子の規則正しい学校生活を望んでいる以上、学校はその要望を重んじる必要があるんだ」

「うちの親そんなんじゃないし」

「他の生徒の親がそうなんだ。自分の子供の清い勉強環境を脅かす異物がいると困るとな」

「うざ……」

「皆勤賞が日本をダメにするって話は、御厨に賛成だ」

「へ?」

 御厨と田小山先生が驚いた顔をこちらに向ける。

「それに田小山先生、考えて見て下さいよ。御厨は価値の無い授業には来ないけど、価値のある授業には来るって言ってるんですよ?」

「そんな勝手が許されるか!」

「1限と2限は来なかったのに、先生の3限は来てる。そう言う事ですよ」

 そんなんじゃないし、と御厨の口が動いた。

 分かってるから、大人しくしていて欲しい。

「そ、そうか。まあ、瀧先生と吉田先生は、授業の質が悪いと聞くしな。だがな、授業を毎日しっかり受ける事は、誰もが出来てることだ。御厨がそれを出来ないと言うのは、教育者として指導せねばならん」

「授業をしっかり受けるのは誰、でもできる訳ではありませんよ?」

「は?御影も俺に口答えするのか?」

「授業の最初から、八足が寝っぱなしです」

「八足ぃ!起きろ!」

 田小山先生は丁度いい相手がいたとばかりに、八足に食って掛かる。

 八足には申し訳ないが、人身御供になって貰おう。寝てたあいつも悪いし。

 放置される事となった御厨は不満そうに自分の席に……

「真面目君だと思ってたけど、結構御影って面白いのね」

 いや、自分の席をすっ飛ばして俺の所まで歩いてきた。

「どうも」

「なに?つまんない返事」

 俺のそっけない態度が気に入らなかったのか、御厨は口を尖らせて自分の席に向かた。

 それが俺が御厨みくりを認識した、最初だったと思うのだ。

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