痛い、そして重い。

 お化け商店街の廃カラオケ店側の出口。

 浩岳高校の男子生徒2人がぐったりと伸びている。

 その周りを黒いジャケットを着た男4人が取り囲み、ガタイの良い男が男子生徒の上に座っている。

 腰掛けている男がオニと呼ばれる男で、腰掛かられているのが俺である。

 しこたま殴られて気絶してしまっていたらしく、懐かしい記憶を思い出してしまった。

「おう、餓鬼ども。みくりの事を探ってる、浩岳のハエってのは、お前らか?」

 オニは威圧的な声色で、脅すように言う。

 先日の件を問われているのか?

 どれ程の情報を握られているのかは分からないが、下手な受け答えをするのは良くないだろう。

 どう考えてもこの手合いは、人の話を聞かない。

 なら問答をせずに、相手に勝手に解釈させるしかない。

「御厨……ですか?死んだって聞きましたけど……?」

 とぼけたフリをして、俺は自分のズボンのポケットを押さえた。

 見付けて貰えるか否かと言う僅かな動きだったが、何とかオニは見咎めてくれた様子。

「おい餓鬼、何を隠した」

「あ……」

 オニが俺のポケットから、『劣情』の小瓶を抜く。

 オニは小瓶を確認して、厭らしい笑みを浮かべる。

「エロ餓鬼だなあ。これ盗んだのか?」

「いえ、薬師寺さんとは初めて会ったんですけど……貰いました」

「あの薬師寺が?はーん……ウソついてんじゃねーよ!」

「ぐ!」

 馬乗りのまま頭を殴られる。

 力の入る体勢ではない筈だが、異常に重い衝撃が響く。

「……ウソじゃないです。八足も貰いました」

「八足ぃ!テメー隠してんじゃねーよ!」

「いや!隠すとかじゃないです、はい!」

 八足は慌ててポケットから小瓶を取り出し、オニに献上した。

「隠してた訳じゃないんすけど……ちょっと使って見たいなー、てのは有ります」

 オニに小瓶を渡しながら、八足は未練がましく薬を見ている。

「クソエロ餓鬼だな、お前も」

「いやー、健全なんで」

「舐めてんじゃねーぞ!」

「は、はい!すいません」

 突然の怒鳴り声にびっくりした。

 とは言え、八足はそれなりにオニに気に入られているらしい。

「この薬は餓鬼の遊びで使えるもんじゃねーよ。餓鬼は素直にナンパするか睡眠薬でも使っとけ」

 オニは立ち上がると、八足に軽いパンチを入れる。

 そのまま黒いジャケット達と共に、廃カラオケの方に向かっていった。

「火遊びは止めとけ、クソ餓鬼ども。次は殺すぞ」

 口調は軽いが、ただ事実として次は殺されると確信した。

 オニたちの姿が消えるのを確認してから、シャッターを背凭れにして上半身を起こした。

「八足、無事か?」

「あ?無事じゃねーよ。体中痛いっつーの。薬も奪われたし」

「悪かったな」

「オニとドリーマーに囲まれて、殺されなかっただけマシだっての」

 八足は自分の顔の傷を触り、痛みに顔をしかめている。

「八足はオニと知り合いなのか?」

「ノブレスカイト入る奴は、基本あいつに挨拶すんだよ」

「デカい顔してるんだな。ドリーマーっていうのは?」

「あの黒ジャケット共の事だよ。あいつら1日寝ないで活動できる兵隊なんだよ」

「そりゃ凄いな」

「言っとくけど、精神論じゃなくて、ガチで寝ないで活動できるんだからな。でも、1日数回くらい、夢遊病みたいに意識なく動き回るから……ドリーマー(夢見る男達)って……呼ばれてるんだよ」

 八足も移動し、俺と同じシャッターに背中を凭れさせた。

 古いシャッターが軋んで、喘ぎ声のような音を出した。

 二人並んでボロ雑巾みたいで、なんだか笑えて来てしまう。

「悪かったな」

 八足にプラスチック容器を差し出す。

 その中には、俺の常備薬が入っている。

「なんだこれ?」

「食べてもカロリーをカットしてくれる、魔法の薬だ」

「要らねーよ、市販の栄養補助食品じゃねーか」

「内2粒だけ、市販の薬じゃないぞ」

「お前……お前本当、優等生じゃねーよな!」

 八足は俺の言いたいことに気付いたらしい。

 プラスチック容器を受け取って中から薬を取り出すと、残りを俺に返した。

「1粒でいいのか?」

「ああ!お前も楽しめよ」

 八足は『劣情』の薬を大事そうに財布に仕舞うと、軽やかに歩き出した。

 念の為に小瓶から2粒、プラスチック容器に移しておいたのだ。

 正直八足を追いかけて問い詰めたいことはあるのだが、俺はもうしばらく動け無さそうだった。

「おい!お礼だ」

「は?」

 八足は遠ざかりながら、自分のスマホを振った。

 スマホで何かを送信したと言うジェスチャーだろう。

 自分のスマホを確認すると、確かに八足からメッセージが届いていた。

「御厨の鍵アカウント?」

 八足から届いたURLにアクセスする。

 スマホに御厨のものと思われるSNSのアカウントが表示された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る