5
痛い、そして重い。
お化け商店街の廃カラオケ店側の出口。
浩岳高校の男子生徒2人がぐったりと伸びている。
その周りを黒いジャケットを着た男4人が取り囲み、ガタイの良い男が男子生徒の上に座っている。
腰掛けている男がオニと呼ばれる男で、腰掛かられているのが俺である。
しこたま殴られて気絶してしまっていたらしく、懐かしい記憶を思い出してしまった。
「おう、餓鬼ども。みくりの事を探ってる、浩岳のハエってのは、お前らか?」
オニは威圧的な声色で、脅すように言う。
先日の件を問われているのか?
どれ程の情報を握られているのかは分からないが、下手な受け答えをするのは良くないだろう。
どう考えてもこの手合いは、人の話を聞かない。
なら問答をせずに、相手に勝手に解釈させるしかない。
「御厨……ですか?死んだって聞きましたけど……?」
とぼけたフリをして、俺は自分のズボンのポケットを押さえた。
見付けて貰えるか否かと言う僅かな動きだったが、何とかオニは見咎めてくれた様子。
「おい餓鬼、何を隠した」
「あ……」
オニが俺のポケットから、『劣情』の小瓶を抜く。
オニは小瓶を確認して、厭らしい笑みを浮かべる。
「エロ餓鬼だなあ。これ盗んだのか?」
「いえ、薬師寺さんとは初めて会ったんですけど……貰いました」
「あの薬師寺が?はーん……ウソついてんじゃねーよ!」
「ぐ!」
馬乗りのまま頭を殴られる。
力の入る体勢ではない筈だが、異常に重い衝撃が響く。
「……ウソじゃないです。八足も貰いました」
「八足ぃ!テメー隠してんじゃねーよ!」
「いや!隠すとかじゃないです、はい!」
八足は慌ててポケットから小瓶を取り出し、オニに献上した。
「隠してた訳じゃないんすけど……ちょっと使って見たいなー、てのは有ります」
オニに小瓶を渡しながら、八足は未練がましく薬を見ている。
「クソエロ餓鬼だな、お前も」
「いやー、健全なんで」
「舐めてんじゃねーぞ!」
「は、はい!すいません」
突然の怒鳴り声にびっくりした。
とは言え、八足はそれなりにオニに気に入られているらしい。
「この薬は餓鬼の遊びで使えるもんじゃねーよ。餓鬼は素直にナンパするか睡眠薬でも使っとけ」
オニは立ち上がると、八足に軽いパンチを入れる。
そのまま黒いジャケット達と共に、廃カラオケの方に向かっていった。
「火遊びは止めとけ、クソ餓鬼ども。次は殺すぞ」
口調は軽いが、ただ事実として次は殺されると確信した。
オニたちの姿が消えるのを確認してから、シャッターを背凭れにして上半身を起こした。
「八足、無事か?」
「あ?無事じゃねーよ。体中痛いっつーの。薬も奪われたし」
「悪かったな」
「オニとドリーマーに囲まれて、殺されなかっただけマシだっての」
八足は自分の顔の傷を触り、痛みに顔をしかめている。
「八足はオニと知り合いなのか?」
「ノブレスカイト入る奴は、基本あいつに挨拶すんだよ」
「デカい顔してるんだな。ドリーマーっていうのは?」
「あの黒ジャケット共の事だよ。あいつら1日寝ないで活動できる兵隊なんだよ」
「そりゃ凄いな」
「言っとくけど、精神論じゃなくて、ガチで寝ないで活動できるんだからな。でも、1日数回くらい、夢遊病みたいに意識なく動き回るから……ドリーマー(夢見る男達)って……呼ばれてるんだよ」
八足も移動し、俺と同じシャッターに背中を凭れさせた。
古いシャッターが軋んで、喘ぎ声のような音を出した。
二人並んでボロ雑巾みたいで、なんだか笑えて来てしまう。
「悪かったな」
八足にプラスチック容器を差し出す。
その中には、俺の常備薬が入っている。
「なんだこれ?」
「食べてもカロリーをカットしてくれる、魔法の薬だ」
「要らねーよ、市販の栄養補助食品じゃねーか」
「内2粒だけ、市販の薬じゃないぞ」
「お前……お前本当、優等生じゃねーよな!」
八足は俺の言いたいことに気付いたらしい。
プラスチック容器を受け取って中から薬を取り出すと、残りを俺に返した。
「1粒でいいのか?」
「ああ!お前も楽しめよ」
八足は『劣情』の薬を大事そうに財布に仕舞うと、軽やかに歩き出した。
念の為に小瓶から2粒、プラスチック容器に移しておいたのだ。
正直八足を追いかけて問い詰めたいことはあるのだが、俺はもうしばらく動け無さそうだった。
「おい!お礼だ」
「は?」
八足は遠ざかりながら、自分のスマホを振った。
スマホで何かを送信したと言うジェスチャーだろう。
自分のスマホを確認すると、確かに八足からメッセージが届いていた。
「御厨の鍵アカウント?」
八足から届いたURLにアクセスする。
スマホに御厨のものと思われるSNSのアカウントが表示された。
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