「へーい、オニ―さん!元気ですかー?」

 御厨のSNSを確認しようとしていたら、優しいサイコパスみたいな雰囲気の女性に声を掛けられた。

「宗教勧誘なら、勘弁して下さい」

「私は警察ですよー!ミイさんって読んでね!怪我してるけど、喧嘩?」

 女性は警察手帳を見せてくる。

 名前は盃貴美似。本当に警察らしい。

「何でもないです。転んだんですよ」

 警察の厄介になるのは避けたいと、立ち上がろうとする。

「う……」

「ノンノン、無理はいけませーんよー」

 立ち眩みで足元が崩れる。

 体勢が崩れた所をミイさんに支えられ、そのままゆっくりと座らされる。

「逮捕なんかしないので、座ってなさいなー」

「……すいません」

 ミイさんはニコニコして、俺を見詰めている。

 その後ろから、偏屈そうな男性が歩いてきた。

「おら、盃貴!ゴミかお前は!」

「酷いです!どうして。そんなことを言うんですかー、鳶川さん!」

 鳶川と呼ばれた男性は警察手帳を見せ、俺を見下ろすように立つ。

 鳶川孝蔵。この人も警察らしい。

「ほら立て、少年!こんな物騒な所から、とっとと立ち去れ!しょっ引くぞ」

「……すいません、すぐ行きます」

 鳶川は並々ならない雰囲気を有している。

「ちょっと鷲川さん、すぐに動けなんて酷いですってー」

 立ち上がろうとした俺の袖を掴んで、ミイさんが座らせた。

「もう少し休んでいったらいーよー」

「ありがとうございます」

「ところでところで、鬼氷って、逮捕される様な事してなかった?」

 なるほど、本題はそれか。熱心なおまわりさんだ。

 鬼氷とは、オニと呼ばれていた男性の事だろうか?

「鬼氷ってガタイの良いおっさんですか?滅茶苦茶殴られましたけど」

「喧嘩じゃねー……弱い!君生きてるし」

 そりゃ、死んだら人殺しだもの。

「御厨みくりって、あいつに殺されたんですか?」

「……探偵ごっこは止めとけ、少年」

 鳶川が興味無さそうに嘯いた。

 しかし、有無を言わせぬ迫力を感じてしまう。

「だってー!少年」

「そうですか……鬼氷は、この薬を売買しているらしいです」

「へー!へー!」

 タブレットから劣情の薬を取り出す。

 ミイさんは興味深そうに受け取ろうとした。

「盃貴、受け取るな。それは違法じゃないから、洗ってもどうにもならねえ」

「もー!鳶川さん!警察にとって有用じゃないからー、って情報を拒否してたらー、情報提供してくれる市民は、居なくなっちゃいますよ!」

「け!要らねー情報なら無い方がマシだ」

「もうー!あ、このお薬はミイさんが、しっかり預かっておくからね!」

「お願いします」

 ミイさんはニコニコ笑顔を張り付けて、薬を受け取ってくれる。

 しかし、薬が鑑定とかに回される事はない気がした。

 訳の分からない青少年の手から、脱法薬を回収しておこうと言う程度だろう。

「連絡先教えて貰っていいですか?あ、これはナンパです」

「……え、あ、いいよー?」

 ダメもとで揺さぶってみると、ミイさんは虚を突かれたようにスマホを取り出した。

 それを見ていた鳶川が、ミイさんを怒鳴り付ける。

「盃貴ぃ!やっぱりゴミかお前は!というか、私用のスマホを持ち歩くな!」

「ひー!すいません!」

 ミイさんは慌てて、スマホをポケットにしまった。

「ったく……仕事戻るぞ。早く帰れよ、少年!」

「はいはーい」

「……はい」

 背を向けて歩き出す鳶川を追いかけて、ミイさんは小走りで離れていく。

 離れ際に「何かあったら連絡してー!」と言われたが、残念ながら連絡先はゲットできなかった。

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