11
警戒しながら建物に近付いていく。
建物の周りには見張りは配備されておらず、監視カメラも設置されていない。
周りをぐるりと回ってみる。
見立て通りそれなりに大きな建物だが、外壁が老朽化しており、一見放棄されているように思える。
しかし扉や窓などのセキュリティに関する部分は、しっかり整備されている。
放棄されているように見せたいが、一定の守りは持たせたい。
そんなちぐはぐな意思が、建物を不気味な化け物に見せていた。
「八足が中に入ったのなら、そのルートが残されている可能性は高い」
普通に考えると侵入は難しい。
だが八足がこの建物に入ったのなら、あいつが侵入に使ったルートが残されている筈だ。
「……開いた?」
建物の裏側のドアを確認していると、その内の1つが何の抵抗もなく開いてしまった。
もう少し見付けにくい侵入経路だと身構えていたので、呆気なさに気が緩みそうになった。
「緩むな、ここは適地だぞ」
見付かれば、ただでは済むまい。自戒しながら、建物の中に入る。
ドアの中は薄暗い廊下になっており、人の気配は感じられない。
建物内は埃っぽく、廃棄された民宿のような雰囲気。廊下の先は良く見えないが、途中に幾つか部屋がある様だった。
俺は侵入に使ったドアをゆっくり締め、明かりを点けぬまま慎重に先に進む。
板張りの床が軋む。
誰かに聞こえてしまわないかと心臓に悪い。
「いや、俺の足音じゃない」
自身の足を止めても、床のきしむ音が聞こえる。
廊下の曲がり角から、誰かが歩いて来ているらしかった。
「どうする?」
このまま全速力で、入ってきた扉から逃げれば、ギリギリ姿を見られないかも知れない。
しかし足音やドアの開閉音で、侵入がばれてしまう事だろう。
「これも悪手だとは、思うけど」
手近なドアノブを回すと、鍵は掛かっていないらしかった。
音が鳴らないように慎重にドアを開け、体を滑り込ませる。
「……」
同じくできるだけ無音で、かつ相手が廊下を曲がってくるより早くドアを閉めていく。
異常なくらい手に汗をかき、危うく手を滑らせるところだった。
「……大丈夫か?」
ドアを閉め、僅かな音も漏らさない様に、ドアノブから手を放していく。
ノブから手を離し切る前に、足音がドアの前で立ち止まる。
「っ……」
いや、クロノスタシスに近い錯覚だったのだろう。
足音は俺の逃げた部屋を素通りし、別の部屋へと入っていった。
助かった……
そんな風に気を抜いた瞬間、
「動くな!」
「っ!?」
口を手で押さえられ、首筋に鋭く冷たい刃が押し付けられた。
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