10
山道を随分と進んだ後、違和感のある場所に出た。
思わず先を照らそうとしたが、本能が何とか押し留めてくれた。
そこは開けているのに、異常に暗いと感じる場所だった。
いや、木々に覆われていない分、星明りは届いている。他よりも明るいのは確かだった
それでも暗いと感じたのは、本来であればもっと明るい筈だと言う、無意識の思い込みによるものだと考えられた。
「建物が有るな、明かりはついてない」
そう。俺達の視線の先には、小さめの工場のような建物が有った。
月明かりしか照らすものがないので全容は分からないが、廃棄されているようにボロボロだった。
「窓おかしくないですか?」
一見明かりのついていない建物だったが、良く見ると薄く窓から光が漏れている。
どうも窓に遮光性の何かが貼られているらしかった。
「ここが当たりって所か」
ナギさんは、そのまま建物に進もうとする。
「待って下さい」
「なんだ?」
「明かりを抑えているってことは、明かりを付ける理由がある訳です。つまり、あの中には人がいます」
「それがどうした?」
「俺が中を見てきます。ナギさんは万が一に備えて、ここで待っていてください」
「何言ってんだ、危ないなら尚更私も一緒に……」
ナギさんは怪訝そうに言葉を吐き出すが、何かに気付いたように俺を睨んだ。
「私を信用してないって訳か」
「どう取って貰っても構いません」
あの建物の中には、八足とノブレスカイトのメンバー達がいる可能性が高い。
もしナギさんがノブレスカイト側の人間であり、俺と八足の敵だったら?
八足を確保した時点で俺も捕まり、詰んでしまう。
ナギさんは俺がそう懸念していると疑っているらしい。
まあ、この際理由は何でもいい。俺が一人で八足を見付けられる結果こそが重要だ。
「分かったよ、私はここで見張ってる」
ナギさんは溜息を吐き、俺の肩を軽く叩いた。
「お前こそ、土壇場で裏切るんじゃねーぞ?」
「窮地で電話を掛けてきた、八足の信頼には答えるつもりですよ」
ナギさんは舌打ちし、渋々道を譲ってくれた。
「15分経っても戻って来なかったら、私も突入するからな」
「勘弁して下さい。30分経って戻って来なかったら、山を下りて警察に連絡して下さいよ」
ピンチに駆け付けるヒーローごっこは止め、現実的な判断をして貰いたい。
不服そうなナギさんを残し、俺は暗い建物へと向かうのだった。
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