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廃カラオケ店は1階に受付と大人数対応のパーティールーム、2階より上は通常の個室が並ぶ設えらしい。
本来であればパーティールームがVIPなのだろうが、現在はパーティールームは普通の人が入れる集会場で、2階より上が幹部などの使うVIPルームになっているらしかった。
俺達は誰もいない受付を抜け、パーティールームへと入る。
パーティールームはメインの明かりが落とされ、代わりに青や赤の光が舞っている。
クラブのような雰囲気で、20人以上の男女の姿。若者が多い様だ。
「ん?あいつは?」
女の子達は手慣れた様子でジュースを手に取り、空いている席を見付けて腰掛ける。
俺も勝手が分からぬまま、彼女達と同じ席に着いた。
「おにーさんの来てない知り合いって、男?女?」
「女。御厨みくりって、知らない?」
「女かー。私らよく来るけど、知らない子」
一番大人びている子は、他の子らに「知ってる?」と確認する。
残念ながら、他の2人も知らない様だ。
「オニさ~ん?御厨みくりって知ってる~?」
部屋中に聞こえる声に、ぎょっとした。
一番の大人びている子が、離れた席に座っていた男性に声を掛けた。
オニさんと呼ばれた30代らしい男性は、スーツを着崩し風体。纏っている空気が、異様と感じさせるものだった。
女の子達に囲まれているオニさんは、脇に立っている黒いジャケット姿の男達に何か指示を出した。
黒いジャケットの男達は真剣な表情で頷くと、コチラに近付いてきた。
「……ごめん、俺トイレ行ってくる」
「え?あ、うん」
明らかに厄介事を処理しに来た雰囲気の男達。逃げる様に席を立つ。
パーティールームを出る辺りで振り返ると、女の子達が俺を指さしているのが見えた。
「……追ってくるな」
『御厨みくり』の名前はNGワードだったのか、男達は俺を逃がさないつもりっぽい。
このまま走って正面から逃げ出せば、入り口前の男達に捕まって終わりだろう。
どこかに隠れる余裕も無いため、軽い小走りでそのままトイレに入った。
男達の視線を切った事を確認して窓に駆け寄る。
しかし、窓は鉄格子が嵌められていて、外に出ることができなかった。
「おら!逃げてんじゃねーよ、学生!」
マズい!
ジャケットの男達の怒鳴り声が聞こえ、慌てて個室に入る。
個室の鍵を掛けたのと、男達が男子トイレに入るのは同時だったと思われる。
「入ってんですかぁ!開けますよー!」
男達が個室のドアを叩き、ガラの悪い脅しをかける。
俺は息を殺して個室の中を見回す。
トイレは薄い木の板で仕切られただけの簡素な作りで、立てこもる様な防御力は無い。
天井も通風孔など見当たらず、ドアを開けずに逃げ出す事は難しそうだった。
「何とか言えよ!開けろよ、開けるぞ!」
男達のドアを叩く音が大きくなっていく。
その声には苛立ちよりも、獲物を嬲る楽しさが滲んでいた。
「おらよ!」
タイル張りのトイレ内に、ドアを蹴る音が響く。
ドアの軋む感じから察するに、もう一発蹴られれば破壊されるだろう。
「メチャクチャだな……」
俺は制服のブレザーとスラックス、白いシャツを脱ぐ。
白いシャツはトイレのタンクの中に捨て、ブレザーとスラックスを裏返しに着る。
これは浩岳男子生徒が学校をサボる時に使う方法で、制服をリバーシブル(リバーシブルではない)にすると私服に見える事を利用した変装だ。
男達は浩岳高校の男子生徒を探しているのだから、少しは目眩ましになるだろう。
「おらよぉ!」
一際大きな音がして、ドアが破壊される。
ジャケットの男達は、個室内に居た人物を問答無用で殴り付けた。
タイル張りのトイレ内に、人を殴打する音が響き続ける。
やがて相手が気絶したことを確認すると、そのまま担いで2階へと運んでいった。
「いや、申し訳ない。ここかなりマズい所だな」
ジャケットの男達が十分離れた事を確認してから、女子トイレから出る。
男子トイレの横を通過する時、むせ返る血の匂いに吐き気を覚えた。
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