小柄で痩せ型の男は名前を甲斐カイトと言うらしい。

 ノブレスカイトのトップなのか?と聞いたら、「そうだ」と言われた。


 カイトの案内で大きな一軒家にお邪魔する。

 3階建ての立派な家だが、カイトはここで一人で暮らしているらしい。

 年は俺と同じ位だが、学校には行っていないとの事。

「みくりが死んだっていうのはマジなのか?」

「ああ。ノブレスカイトで話題になっていないのか?」

「最近は大きな顔してる奴がいるから、顔出せてないんだよ」

「オニって人の事か?」

「ああ。奴はヤバえ」

 カイトは自室に俺を招いてくれた。

 結構話し易い奴で、自然と敬語を使うのも忘れていた。

 妙に人懐っこいと言うか、子どもっぽいと言うか、不思議な魅力のある奴だった。

「それにみくりの奴浮気してたっぽくてな、連絡できてなかった」

 カイトは何かしらのスマホ画面を見せてくる。

 いや、ごめん聞いてなかったし見てなかった。

「なんというか、ドンマイ」

「チックショーだよなー」

 カイトは一昔前に流行った芸人の真似をする。

「ノブレスカイトの名前は、トップのあだ名から来てるって聞いたから、カイトってもっと偉そうな奴なのかと思ってた」

 ノブレスとは「noblesse」。高貴なとかの意味の英語だ。

「チームの名前は、周りが決めたからな」

 カイトは照れ臭そうに笑った。

「まー、チームっていうか、元々は宗教団体的な意味合いだったんだけどな」

「そうなのか?」

「ああ。人間の進化って何か分かるか?」

 カイトが前のめりになる。

「質問が曖昧で、臨む答えを出せる気がしない」

「人間の進化っていうのは、『モテる』事なんだよ」

 ああ、そう言う。

「例えば、もともとキリンは首が短かった。でも、首の短いキリンの中で、少し首の長いキリンが生まれる。少し首の長いキリンの方が、高い位置の草を食べられるし、敵の警戒ができるから生き残っていく訳だ。そうすると生物の本能として、少し首の長いキリンの方がモテるし、子孫を残せる。結果的に、首の長いキリンの遺伝子が残っていって、キリンの進化が行われたって訳だ」

「人間もモテる方が、進化の導ってことか?」

「そうだ!つまり、どんどんモテていこうって教義だ」

 カイトはドヤ顔しているが、それはヤリサー化不可避だわ。

「ところで御厨の話を聞きたいんだ」

「はあ?なんでお前にそんな話をしないといけない訳」

「故人をしのぶ意味でさ」

「死んだ人間の話はしねえ」

 さっきしてたじゃないか。

 カイトはさっきから、御厨の詳しい話をしてくれない。

 こっちに敵意を見せないが、全ての情報を渡す気はないと言った所だろうか?

「荒野人格あるのか」

 相手の警戒を切り崩せないものか考えていると、テレビ台の下にの中にゲーム機を見付けた。その横には荒野人格と言うオンラインゲームのパッケージも転がっている。

「あ?お前できるの?」

「一応赤帯」

「あー……やるか?」

 一応赤帯は最高峰のランク。

 得意なゲームと言っていい筈なのだが、カイトからは憐みの視線を感じる。

「ああ、やろう」

 ゲームでも一緒にやって、その中で御厨の情報を引き出せればいい。

 この時の俺は軽い気持ちで考え、この後の地獄を想像だにしていなかった。

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