「ち!オマエ、本当知らねーからな!」

 放課後、メチャクチャ不満そうな八足を伴って、ノブレスカイトの廃カラオケ店に向かう。

 八足に御厨の話を聞いても、「詳しい事は知らねー」としか言わなかった。

 それではこちらとしても脅しをかける意味がないので、『ノブレスカイトの幹部を1人紹介して貰う』ことで話が付いた。

 今からその幹部、薬師寺クスシに会いに行く所である。

「本当、あの人不気味なんだよ……」

 八足は自分から幹部の紹介を申し出ておきながら、全く乗り気ではない。

「別の幹部でもいいぞ」

「別の幹部なんて知らねーよ」

「トップのカイトとか知らないか?」

「トップ?カイト?……知らねーけど、聞いた話だと、リーダーは人当たりは良いけど、決定的にイカレテルらしいぞ」

「そうなのか?」

 そんな感じは……どうだろう?

「つーかよ!俺、リーダーに彼女盗られた訳!知ってるなら俺が紹介して欲しい位だぜ!」

 それはそれは……

「ドンマイ」

「うるせーよ!」

 八足はカイトを殺してしまいそうな怒りようだ。

 紹介するのは、止めておいた方がいいだろう。

「ところで御厨の事は、本当に何も知らないのか?」

「しつけーな!あんなバカ女の事なんて、知る訳ねーだろ」

 バカ女とは酷い言い草だ。

「八足だってバカじゃないか?」

「あ?俺がバカだと、あの女がバカじゃなくなるのか?」

 言われてみれば、2つの事実に相関関係は無かった。

 人の評価は相対的なものだが、母数が多く短期的であれば、疑似的に絶対的なものになってしまうのだ。

 逆に『八足はバカではない』となると、自然と『御厨もバカではない』になる気もするけど。

「つまり、八足も御厨も絶対的にバカってことだな」

「あぁ?喧嘩売ってんのか?」

「売ってる。あんなグループに入っている奴は、全員好ましくない」

「ち……さすがクラス委員を任される優等生さんがよ」

 何故か急に褒められた。

「ありがとう」

「ち……」

「話は変わるけど、皮肉って最低だよな。褒め言葉を送った上で、相手にわざわざ『いや、実は褒めてないんだ』って判断させる訳なんだから。やられた方は二度手間だし、言った方は直接悪言を口にしてないから、罪悪感も無いときた」

「話変わってねーじゃねーか、悪かったよ」

 八足は素直に謝ってくれる。

 この様に彼は意外に良い奴だったりする。

 まあ、御厨をバカ女呼ばわりしたことは許さないけど。

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