3
オニが酒盛りをしている店を出て、箕浦の街を歩く。
右拳を怪我した学生と背の高い女性、黒ジャケットを着た大男が2人。
顧みるまでもなく風体の集団。
勿論、ノブレスカイトのドリーマー2人は、俺の手伝いではなく監視が目的だろう。
駅前近くのロッカー付近まで戻りたいが、監視付きの状態では難しい。大通りを歩くのは躊躇われたので、意味もなく路地裏に入った。
「……」
こんな状況になってしまったら、俺の取れる手段は1つだけ。
早く八足を見付けることだ。
最悪なのは、オニ達が先に見付けてしまう事だ。俺も八足もどうなるか分からない。
次に悪いのは警察が先に見付けてしまう事。俺はオニ達に報復を受け、八足は犯罪者として扱われてしまう。
「俺はとにかく八足を見付けて、警察に渡すしかない」
八足を見付けて、オニや警察から隠す?
そんな事は出来ない。オニにバレたらどうなるか分からないし、警察にバレたら俺も犯罪者だ。
ノブレスカイトが関わっている事は確定しているので、それを警察に伝えるしかない。
八足の無実を証明できるかは分からないが、それ以上を望まれても果たせやしない。
「……」
しかし黒ジャケットの監視のある状態で、八足を見付けても仕方ない。
とにかく黒ジャケット2人を、どうにかして遠ざけるしかない。
……ナギさんが味方であれば、の話であるが。
「正直な話、オニさんが探してるのって、八足じゃなくて薬の方ですよね?」
当然の様に男達の方に話を振ると、男達は顔を見合わせた。
男達は口を開く素振りを見せたが、ナギさんが言葉で遮った。
「ああ、金になるのは薬だ。正直八足はどうでもいい」
男達は目線で「そうなのか?」とナギさんに尋ねる。
ナギさんは「当たり前だろ」と頷いた。
「なら、薬の行方は、入江に聞くしかないですよ」
「入江に?」
ナギさんが首を傾げる。
「実は入江は、八足から薬を奪うのに成功してるんですよ。でも彼女が薬を使いたかったから、八足が持っている事にした」
「なるほど。それで私らの目を反らしたって訳だ」
信憑性の全くない話だが、ナギさんは考え込むような表情を作った。
男達は、分かってなさそうな顔で、お互いを見合っている。
「お前、入江の所に行って来い」
「は?なんで俺が」
ナギさんは男の内の1人に指示を出した。
「四人で薬探して来いって言われてるんだから、手分けするのは当然だろ?分かってると思うが。薬が見付からなくて殺されるのは、この餓鬼だけじゃなくて、私達もだぞ」
「わ、分かったよ。オニさんに確認してくる」
男がしぶしぶ了承する。
しかしナギさんは、信じられないと言うように、大仰に首を振る。
「は?鬼氷さんに『まだ見付かってませんが、手がかりは見つけました。入江の所に行ってきていいですか?』とか言うのかよ?『見付けた以外の報告は要らねえんだよ!』って、殺されるぞ」
「……分かったよ。先に入江を締めて吐かせて来る。ったく、オニさんのお気に入りだからって、調子に乗りやがって」
男はナギさんに言い包められ、渋々駅の方に向かっていった。
入江は安全な警察病院にいる筈だが、どうやって締めるつもりなのだろうか?
「ぎゃふ!」
「おい、お前もどっか行っとけ」
残った男をどうやって遠ざけるか考えていると、ナギさんがその男の尻を蹴り上げた。
ナギさんは男の尻ポケットから財布を抜くと、6千円ほど札を取り出して男に渡す。
「これで店でも行って来い」
「いや、これ自分のお金……」
「あ?」
「いや!行ってきます!」
男は6千円を掴むと、繁華街の方に走っていった。
「どういうこと?」
「あいつはドMだから、あれでいいんだ」
なるほど?
よく分からないが、見知らぬ他人は遠ざけることができた。
問題はナギさんが、敵か味方かってことだ。
「信じてもいいんですよね、ナギさん」
「信じて良いかどうかは、私が決めることじゃない」
ナギさんは、とても当たり前のこと言った。
「ただ騙したのは、悪かったと思っている。すまんな」
ナギさんから謝罪の言葉が出てくるのは、尋常な事ではない。
許す許さないは別にして、協力してくれると考えて良さそうだ。
「それに八足の野郎をぶっ殺してやりたいのは、私も同じだ」
俺は同じじゃないんですが、それは?
「分かりました、今は協力しましょう。後で話は聞かせて貰いますから」
「やだよ。何を聞かせて欲しいか言えや」
どさくさに紛れて言質を取ろうとしたが、あっさりと拒否されてしまった。
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