「つってもなー!みくりと会ったのもヤッタのも、一回だけだしなー」

 オニはバカにしたように言い、ドリーマー達と顔を見合わせて馬鹿笑いする。

 なるほどそれが言いたかっただけかと、視界がプツリと暗くなる。

「……痛っ」

 ふと気付くと、ナギさんが俺の腕を強く掴んでいた。

 オニやドリーマー達は見知らぬ言語で会話をしている様で、一切頭に入ってこない。

 この世界で唯一生まれた痛みで、ナギさんに怒りが湧く。しかし、この静止はドリーマーとしてではなく、御厨の友だちらしき者としての行動だったと信じたい。

「……」

 知らずに腰を浮かしていた。間違えない様に、ゆっくりと深く座り直した。

「つー訳でよー、みくりはそんなにいい感じじゃなかったぜー。まあ、処女だったから儲けだけど」

 腕にナギさんの爪が食い込んでくる。

 今は痛みが、ありがたかった。

 ……とかないから、シンプルに痛い。

「おう!こっちは情報やったんだから、こっちの手伝いしろよ、餓鬼」

 オニは御厨の画像を表示したスマホを仕舞い、対等な取引であるかのように口にする。

 勝手にカニを贈り付けて、代金を請求するのと同じ類の詐欺だ。

「手伝いとは、なんですか?」

「今日中に八足の餓鬼を見付けろ」

 無理だとは言わせない威圧感。

 断る事は出来なさそうだが、せめて条件を有利に寄せたい。

「目星は話した範囲でしか、ついていません」

「じゃあ、時間を惜しんで探して来い!」

 オニは吠え、机を叩いて大きな音を立てた。

 交渉など受け付けないと言う、強烈な意思表示か。

「お前とお前、この餓鬼に着いて行け」

「「はい!」」

 廊下に立つドリーマー2人に指示を飛ばす。

 監視付きで探して来いという訳だ。

「ナギさんも着けて下さい」

「あ?お前ら知り合いだろーが」

「こんな人知りません。ハメられて、言いたい事が山ほどありますが」

「何か文句あるのかよ?」

 俺が睨み付けると、ナギさんも睨み返してくる。

「バチバチだな、餓鬼ども」

 そんな俺達を見てオニは笑い、虫でも払う様に手を振った。

「なら、そいつも含めて4人で行け。やり合っても良いけど、八足の餓鬼は見付けろよ」

 オニは一方的に命令を下すと、店員を呼んでビールの追加を注文した。

 ナギさんは乱暴に俺の腕を掴むと、店の外まで引っ張っていく。

「言いたいことはあるだろうが、口を開くな」

 子どもを諭すかの様に、バカにしている。

 ナギさんは店を出るまで、俺がオニの方を振り返る事を許さなかった。

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