13

 ミイさんに教えられた部屋からは異臭が漏れ、扉を開くのに暫く躊躇った。いざ部屋に入ると、汗が腐った臭気に目を覆いたくなる。

 部屋の中を見て思いついたイメージは花屋だった。

 体を切り取られ、未だ死んでいない花の残骸達。栄養の無い水を張ったバケツに入れられ、引き取り手が見付かるまで、晒首の様に並べられている。

「御影か?」

 明かりの絞られた部屋を見回していると、不意に名前を呼ばれた。

 部屋には蹲る黒い影が幾つもあり、その内の一つが八足であったらしい。

「八足、無事だったのか」

「体はな……来てくれてサンキューな」

 暗くてよく見えないが、八足の声は疲れ切っていた。

 八足の隣には、虚空を見詰める女性がいた。

 きっと八足の彼女なのだろう。元の彼女を知りはしないが、その様は何とも痛ましい。

「パコって子も、この部屋にいるのか?」

「ああ。そこだ」

 八足は部屋の隅の特に影が濃い場所を指さした。

 わざわざ確認するまでもなく、今の八足が言うのであれば確かであろう。

 そもそも確認した所で確信が持てるとも思えなかった。

「あきがリーダーと会ってるのは分かってたからさ、浮気してるのかと思って。御厨はそんな簡単な事じゃないって言ってたけど、俺は浮気だと思い込んでたから聞く耳持たなくてさ。オニさんに会いたいって言ってたから紹介したけど、まさかあんなことになるとは思わなかったんだよ」

 八足は蹲る影を抱きしめながら、闇の中から話しかけてくる。

 正直な所、八足が独白する情報はもっと聞いていたかった。

 しかし彼をこれ以上この部屋に居させるのは良くないと、怠惰な良心が囁いた。

「とりあえず部屋を出よう。話はそれからだ」

「あ……あきは?」

「自分達が助かってからだ」

 八足の肩を掴んで部屋の外へと連れていく。

 彼女らしき人物の腕を掴んでいたが、無理やり離させた。

 八足は意外なくらい抵抗なく、彼女から離れた。

 ずっとこの部屋にいたのだから、彼女が手遅れなのは理解できてしまったのだろう。

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