第1章『誰が彼女を殺したの?』1

「いやな、俺だってお前を信じてるよ。けどなあ、そういう意見が多い訳だわ」

 俺の目の前では田小山先生がうだうだと妄言を吐いていた。

 昼休みに教室に呼び出されたと思ったら、何の思考も介さない噂を噂のまま口にする非建設的な時間を過ごさせられている。

 あんたが得ている噂位、全部俺の耳に入っていると言って切り上げたい。

「御厨が死んだのは残念だ。でだ、警察は事故死だって言っているらしいけど……なあ?他殺や自殺って話もあるじゃないか」

 そんな話は無い。

 ゴシップ好きのクラスの男子が、面白がって口にしているだけだ。

「でだ?御厨が死んだ日。お前が御厨を震度指導室に連れ込んでたのを見たって奴がいるらしいんだ」

 居るだろうな。あんたの仕事を代わりにやったんだから。

「御厨を連れ込む前に、クラスメイトに御厨の成績を聞いて回っていたそうだな。どうせ、その情報をネタに御厨を脅したって所だろう」

 クラスメイトが知っている情報が、何の脅迫材料になると考えているのだろう?

 しかし、情報収集は自分の判断で行った事なので、田小山先生が付け入る隙になってしまう。

 今後は軽率に仕事をしないように気を付けよう。

「若い男女だから仕方ないけどな……はぁ……お前には期待していたんだがな」

 田小山先生がこれ見よがしに溜息を吐く。

 ああ、なるほど。

 次に何かしらの頼み事をするのだろう。

「まあ、俺以外の先生方はお前を疑う向きもあるようだが、俺はお前を信じてる部分もある」

 下手くそなアメとムチは止めて、さっさと本題に入って欲しい。

 一定年齢以上の男性は、頼みごとを断らせない様に、一度相手を貶める言動をする癖が面倒だ。

「これは御厨のスマホだ。警察に渡しても良かったんだが、出来れば親御さんに届けて上げて欲しいんだ」

 田小山は机の上に、ホワイトのスマホを出す。

 そう言えば前に御厨が教室で使っていて、田小山に没収されていた。

 警察にも遺族にも提出し忘れていて、俺に面倒ごとを押し付ける気なのか。

「分かりました。今日、御厨の家を尋ねてみます」

「うん。それが良いな」

 田小山先生はあからさまにほっとしている。

 俺に御厨の親の所に行かせたいなら、『俺が御厨を襲って、それが自殺の原因になった』という言動を出してきた意味が分からない。

 まあ、生徒に意思は無いと言う前提の下に、思いつくままに口にしているだけなのだろう。

「……失礼します」

 彼女のスマホを手に取り、職員室を後にする。

 田小山先生は何かしらの言葉を口にしていたが、労いだったと思っておく事にした。

「電源は入らないな」

 電源タイプは俺のスマホと同じ。

 モバイルバッテリーを挿しておけば、放課後までにはそれなりに回復するだろう。

「御厨の家ってどこだ?」

 御厨の知り合いに彼女の家を聞かないといけない。

 しかし、軽軽な行動は避けたい。

『事件当日、俺と御厨に何かあった』という噂は、それなりに真実味を持って広まってしまっているのだ。

「殆ど、御厨が俺に振られたって話なんだが」

 何処をどうしたら、そうなるのか分からないが。

「……しまった」

 御厨の友達に連絡を取ろうと考えたものの。

 御厨に友だちらしい友だちがいない事を思い出して、初手で詰んでしまった。

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