5
「ん?」
バス停を確認していると、突然スマホが鳴り響いた。
知らない番号からの着信。
「オニかな?」
出たくなかったが、そういう訳にもいかない。
渋々電話に応答すると、スピーカーから、非常に焦った声が聞こえてきた。
「御影か?彼女の電話から掛けてて、もう電池が無いんだ。1%しかなくて……その俺通報されて追われてるのか?でも俺やってなくて……」
涙声で早口で、要領を得ない言葉を吐き出し続ける。
きっと八足だ。
このまま喋るに任せていても、きっと重要な情報は出てこないだろう。電池が無いと言う言葉が確かなのであれば、すぐにでも状況を把握するしかない。
無駄な問答をする余裕はない。
お前は本当に犯人じゃないんだな?
今どこにいるんだ?
問いかけはシンプルにしなくてはいけない。
けど、そんな言葉は正解じゃない気がする。
俺が明かすべき謎は、きっと1つだけ。
「御厨は正しかったんだな?」
俺が選んだ言葉を聞いて、八足がハッと息を呑むのを感じた。
苦しむように嗚咽を吐き出した後、懺悔を零し始めた。
「ああ……俺の彼女…見つかったよ……パコもいた……でも薬でおかしくなってて……俺……俺さ……」
「劣情の薬か。八足、お前も女の子に薬を盛るとか言ってなかったか?」
「ごめん……俺、間違ってた……知らなくて……こんなことになる薬だなんて……いや、相手が人間だって……分かってなかったのかも……」
八足は泣きじゃくり、誰にかは分からないが謝り続ける。
自分が恐怖に脅かされて、やっと他人が人間だと理解したのだろう。
「無知は病気だ」
つい漏らした言葉に、八足は更に謝罪を重ねる。
そしてスマホの電池が切れたらしく、通話は途絶えてしまった。
「…………」
無知は病気だ。知識と言う薬で、治すことができる。
しかしバカは性質だ。死んだって治りやしない。
バカめ、バカめ、バカめ、バカめ、バカめ!
「バカか、俺は」
利用しているつもりで、掌で転がされてたとなれば滑稽だ。
他の奴よりも賢いつもりでいて、真実は痴態を晒していた訳だ。
「落ち着いたか?」
肩を叩かれ、我に返った。
振り返るとナギさんが、憐れみの視線を投げかけていた。
「……いや、卑下してる時間は、無いんですよね。ナギサん、タクシー拾って下さい」
「もうすぐ八番のバスは来るぞ?」
「いえ、行名山に行くのは後です。あんなデカい山で、闇雲に八足は探せない」
なら、御厨に教えて貰うしかない。
「カイトの所に行きます。支払いは、さっきかっぱらった財布でして下さいね」
カイト?と首を傾げるナギさん。
ああ。ノブレスカイトのトップを名乗る、あの引き籠りゲーマーの所だ。
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