薄暗い陽ざしが目に痛い。

 夜明け直前の清んだ空気を肺に入れると、吐き気が込み上げてくる。

 オニに殴られた後体が熱を持ち、満足に動けなかった。

 何とかカイトに家に辿り着いたが、そのまま寝落ちしてしまっていた。

 痛みと熱で夜中に何度も目を覚ましたので、寝不足の症状も発生している。

 コンディションは最悪。

 とは言え今日は平日。

 学校に行かねばならないと言う惰性に急かされ、用意を取りに帰宅した。

 ――寝ぼけた眼は、迫る異常を見落としたようだ。

「おはよー!ミカゲッチ!」

 家の前に立って鍵を取り出そうとした時、後ろから声を掛けられた。

 振り返ると、笑顔のミイさんと眼光の鋭い鳶川さんが居た。

「なんですか?」

「朝帰りかい!ミカゲッチ!不良少年だねー」

「ミカゲッチって止めて下さい。ボコされて動けなかったんで、近くの友達の家で休んでたんですよ」

「女の子―?」

「どうせ調べてるんじゃないですか?」

「はっはっはっー!そこまでは手が回っておらぬ」

 ミイさんは軽い口調だが、雰囲気はれっきとした警察のものだった。

 ただならぬ空気を感じて、体の奥から熱が噴き出るようだった。

「八足が女に暴行して追われてる。何かしらないか、少年?」

「え――?」

 は?

「本当の動揺だ。この少年は白だろ、引き上げるぞ」

「えー!無関係だったら、聞き込みしましょうよー!」

 遠くの方で鳶川とミイさんの声が聞こえる。

 海の底で溺れたように息が出来ない。

「なん――て――?」

 声が出ない。

 夢の中で喋ろうとしているみたいだ。

「いやー、君がくれたお薬あるでしょー?八足くん、あれ使ってやんちゃしちゃったらしくてねー?」

「ゴミかお前は!無関係な奴に、事件情報を話すな!」

「もー!鳶川さんー、聞き込みした相手に精神的動揺を与えたままだと、またクレームになりますよー。上に怒られますよー」

「う……だが、その少年を巻き込むのも良くない」

「私がケアしときますからー!鳶川さんは5分散歩してて下さいー」

「なんで俺が……」

「鳶川さんの怖い顔は、それだけでパワハラですからー」

「お前!………この区画一周したら、帰ってくるからな」

「はいはーい!」

 ミイさんを残して鳶川さんが離れていく。

 ミイさんは事件のあらましとかなんとか教えてくれていた気もするが、耳に入ってこない。

 その日は学校を休むことにした。

 皆勤賞を狙ってなくて良かったなんて、つまらない事が心に浮かんだ。

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