第11話 神人の介入

 強い閃光を受けた目が、まだ霞んでいる。


 羅刹鬼が視ているものもまた、真っ暗な闇だった。


 漸く羅刹鬼との同調が戻ったキサラが視たものは、炎を上げて燃える鳥居の姿だった。


 白鬼も雷に打たれたのか、薄く開かれたままの口から黒煙を上げている。

 燃えているというよりは、まるで体内を焼き尽くされて燻っているかのようだった。


「羅刹鬼、今のなに!?」


神人カムトだ……」


 キサラの質問に応じるように、羅刹鬼が視線を動かす。

 サヤたちの遙か頭上、雷を迸らせる鈍色の雲を冠するように、あの白い鎧をまとった幻装兵げんそうへいが佇んでいるのが見えた。


「……あの大厄災の日と同じ……」


 呻くように呟くキサラの目にも、幻装兵の姿が映っている。

 幻装兵の胸部が開いたかと思うと、中から黒衣に身を包んだ女性の神人が降下を始めた。


「成人の儀で見た、異国の人と同じ……」


「はン! とっくに勘づいてたってヤツかァ」


 キサラの言葉に羅刹鬼が忌まわしげに鼻を鳴らす。


「……サヤはどうなるの?」


 問いかけるキサラの視線は、神人から動かすことが出来ない。

 舞を止めたサヤは、神人と一人向き合っている。

 神人は、キサラが見た時と同じ黒い異国の服に身をまとい、ゆっくりとサヤに接近していた。


「何を話してるの? 羅刹鬼、聞こえる!?」


 唇が動いているところを見るに、サヤと何かを話しているようだが、声は聞こえない。


「聞こえてンなら、何だ?」


「教えて」


 キサラの懇願する声に、羅刹鬼は冷たい声で応じた。


「……わかンねェ」


 話が終わったのか、サヤがその場にひざまずく。


 俯いた神人が腰に携えた刀をゆったりと引き抜いた。


 磨き上げられた刀身が、上空の雲が発する雷を写して鋭い光を帯びている。


「ダメ!」


 神人がしようとしていることに気づいた瞬間、キサラは羅刹鬼と共に駆け出していた。


「羅刹鬼ッ!」


 ――サヤが、殺されちゃう!


 禁忌を犯したのか否か、そんなことはキサラには関係なかった。

 ただ、神人の行いを阻止しようと、羅刹鬼を全速力で移動させ、サヤのもとに向かう。


 涙で前が見えなかった。

 羅刹鬼の体内で揺られながらキサラは歯を食いしばる。

 ふと頬に温かな風が触れた。



 ――キサラちゃん、ごめんね。



 サヤの声がキサラに届いた。


 それは、サヤが死者になってしまったことを意味していた。


「サヤぁああああっ!」


 目の前で、サヤが神人の刀に貫かれて崩れ落ちる。


 届かないとわかっていて手を伸ばし、キサラは絶叫した。


 キサラと同調した羅刹鬼の手から蒼い炎が迸ったが、神人を捉えることは出来ずに虚空に掻き消えた。


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