第32話 刃向かう者たち
宙で止まったままの槍が、不意に支えを失ったように地上に落ちる。
ルドラ率いるレーヴェ五機は、各々に槍と戦斧を構え、降下し始めた敵機を注視している。
機体から聞こえたのは、あの終末ノ巫女・アルカナの声だった。
『敵機は、
通信機を通じて全機に知らせ、エンネアは槍を構えて神人の動向に注視した。
幻装兵は剣を携え、静かに降下を続けている。
強い風が地上を駆け抜け、幻装兵の元に集まり始めた。
『……隊長! 敵機の剣がッ!』
風を吸収するように、幻装兵の剣が掲げられる。
刀身は風の刃を
『近距離攻撃以外に我々に分はない……。だが、間合いに入り込めるか否か』
『数ではこちらに利があります』
『はははっ! 全員が暗黒騎士でもない限り、利とは言わんよ』
ルドラはエンネアの言葉を笑い飛ばし、自らの剣を構えた。
『さて、頼みの綱の暗黒騎士はどこかね?』
『出撃準備に入っているはずです。時間を稼がなくては』
先陣を切って然るべきイルフリードが、この場にはいない。
自分よりも早くに研究所を出たはずの上官の動きを想像するエンネアの腋を、冷たい汗が流れていった。
『……今一度言う。我々を捨て駒にされては困る』
『無論です』
その考えはエンネアにはない。
イルフリードもそのはずだ。
だが――
『どうして、ここにいないのですか……』
呻くようにエンネアは呟き、目の前に降り立った幻装兵を見つめた。
『サキガミ・キサラを出しなさい』
『神人に渡すことは出来ません』
ルドラが応じるよりも早く、エンネアが応えた。
『邪魔する者に、容赦はしません』
アルカナが静かな声で言い、エンネア機に向けて剣を振り下ろす。
エンネアはそれを左に避けて
『連携しろ!』
ルドラの命令で、レーヴェ五機が陣形を組み、幻装兵を包囲する。
エンネアの攻撃に遭わせて幻装兵の背後から槍が突き出されたかと思うと、戦斧が地面を削りながら一撃を繰り出し、土煙とともに機体胸部を抉る。
『……なるほど』
風を巻き起こし、間合いから逃れたアルカナが、機体の頭部を刎ねるように剣を薙いだ。
『全機後退!』
鋭くルドラが命じ、幻装兵の初動位置に
『おおおおおっ!』
間合いに入ったルドラが咆吼と共に斬り上げる。
アルカナ機は右腕の盾でそれをいなし、薙いだ剣を素早く引き戻す。
だが、それよりも早くレーヴェ二機の戦斧が同時に閃いた。
『はあぁっ!!』
操手の声が重なり、戦斧が幻装兵の剣に叩き付けられる。
受け止められることを想定して繰り出された二機の多重攻撃を悠々と受け、幻装兵は風を操りながら二機を押し返し始めた。
『やぁああっ!』
エンネアが叫びながら
その瞬間、鋭い閃光が空を駆け、辺りに轟音が響き渡った。
『――――!!』
耳をつんざくような音と、眩い閃光に前が見えなくなる。
至近距離で落雷を起こされたのだと気づくのに、時間がかかった。
『どれだけ来ようと、無駄です』
冷酷な声が抑揚なく告げる。
次の瞬間、幻装兵の足元から暴風が吹き上がり、竜巻が発生した。
『ぎゃぁああああっ!!』
鋭い風の刃に切り刻まれ、レーヴェ隊の五機が木の葉のように散り散りに粉砕される。
断末魔が消え、機兵の血ともいえる
『よくも、よくもぉおおおおっ!』
ルドラが剣を振りかざし、幻装兵へと向かっていく。
『加勢します!』
エンネア機も
刺し貫こうと狙うのは装甲の間隙だ。
ごく狭い隙間へと穂先を滑り込ませる正確な攻撃は、アルカナが繰り出した風の刃によって弾かれた。
『その攻撃は、見抜きました。他の一手を考えるべきです』
穂先が跳ね飛ばされ、しっかりと掴んでいたはずの槍が宙を舞う。
エンネアは賢明にも、強力な逆噴射を起こして大きく後ろへ逃れ、数秒前まで自分がいたところに振り下ろされた剣を見送った。
だが、不幸にもそこはルドラの追撃の起動上にあった。
『ルドラ隊長!!』
注意を叫ぶがもう遅い。
ルドラの機体ごと、剣が地面に振り下ろされる。
アルカナの一太刀はルドラ機を両断するだけでは足りず、地割れと強烈な地響きを起こし、エンネアは機体を更に後退させなければならなかった。
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