第6話 故郷への想い
夕焼けの空を飛ぶ赤蜻蛉の影が濃くなって、薄闇の彼方に消えていく。
「よくわかったね。
「うん。キサラちゃんのこと、考えてたら羅刹鬼の声が流れて来たから」
サヤの答えは、麓にいたのに羅刹鬼の声が聞こえたということだ。
キサラには羅刹鬼の声が聞こえるが、そばに行かなければその声はわからない。
「……そっか」
力の差を感じながらキサラは呟き、サキガミの里の明かりを見下ろした。
金色の実りが風に豊かに揺れている。
稜線に消えていく夕陽の赤い光に照らされるその様子は、いつにも増して美しかった。
「今日もおつとめ、お疲れさま」
「ありがとう」
豊穣の儀式は、サヤの魔力を大きく消耗する。
その後、羅刹鬼に酒を届けるために尾根まで上ってきたサヤは疲れていそうだ。
「疲れてるでしょ。おぶっていくよ」
「ふふふっ。大丈夫だよ」
キサラの申し出をサヤは笑って断り、身体を弾ませるようにして山道を降りた。
日が沈むと辺りは真っ暗になるが、歩き慣れた道は、もう目を瞑っていても歩けそうだ。
「キサラちゃん、私、もう子供じゃないんだよ」
そう、もう子供ではなくなる。
ハクライの里とサキガミの里では十五歳を迎えれば、成人とみなされるのだ。
そうしたら――
「ねえ、サヤも里に戻るつもりだったの?」
「うん」
羅刹鬼に打ち明けた自分の心の内を、サヤにも打ち明ける。
サヤは羅刹鬼との会話の続きを話すように口を開いた。
「ハクライの里も、また耕作に耐えられるようになってきたから。その方が、サキガミの里にとってもいいって、シトゥンペが」
「私も一緒に戻る」
キサラの宣言に、サヤは少し驚いたように振り返った。
「……いいの?」
「いいもなにも、ハクライの里は私たちの生まれ故郷だよ」
サヤの手を取り、導くように山道を下り始める。
こうして手を繋ぐのは、久し振りだった。
「二人で戻って、また最初からやり直したい」
「キサラちゃん……」
キサラの言葉にサヤは声を震わせ、それから繋いだ手を確かめるように握り返した。
夜気で冷えていたが強く、温かな手だとキサラは感じた。
「……うん。私、頑張るね。みんなとまた里で暮らそう」
サヤの言葉には微かな違和感があった。
だが、キサラはサヤが自分と同じ想いであったことが嬉しくて、その違和感をすぐに忘れた。
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