閑話 レイア 後

 

 買い物の途中、どうやら視察の最中だったのか、国王が正面から歩いてくるところに出くわした。

 私とお母さんは直ぐに国王の進路を開けるために道の端に寄った。他の人たちも同じように道を譲っていたので、別にこの段階では変なことはしていなかったと思う。


 国王が私たちの横を通り過ぎるタイミングで何故か私の方を見た。何やら驚いた表情をしているのが印象的だったのだけど、あれは何だったのか。今でもよくわからない。

 そして、この時はまだ国王が私に話しかけて来るようなことは無かった。


 国王と初めて言葉を交わしたのは、最初に国王を見てから数カ月が経ってからだった。それは、私が家の近くの森で魔法の練習をしている時に、この森に住む魔物の調査をするために森に来ていた国王が率いる集団に出くわした。


 どうやら、ここ最近森から出て来る魔物の数が減っているとの事で、その原因を探りに来たとの事。周辺に住む人たちにとっては出て来る魔物が減っていると言うのは、ありがたい事ではあるのだけど、国としてはもし何かの前兆であった場合は早めに対処しなければならない。その判断をするための調査だった。


 うん。まあ、その原因って私の事なのだけどね? 森の中で魔法を使っていると結構魔物が寄ってきたりするのよ。それで、寄って来た魔物を片っ端から倒していたら、森に居る魔物の数が減っていたと言う事。

 倒した魔物はさすがに子供だった私には処理できないから全部両親に渡していたのだけど、たぶん半分以上はギルドとかに売っていたのだと思う。たくさん倒した日の翌日なんかは凄く食事が豪華だったし。


 まあ、その辺りはいいとして、私が森で国王を見つけた時、ちょうど国王たちがウルフの群れに襲われていたのよ。国王が引き連れて来た人たちも戦力はあったのでしょうけど、かなり大きいウルフの群れだったせいで苦戦していたのね。だから、見つからないようにちょっと手伝ったの。まあ、子供の浅知恵の隠れ方だったから直ぐにバレたのだけど。


「今回は助かったぞ。まさか前の視察の時に見た子供に助けられるとは思っていなかったがな」

「そうですか」


 そう言って国王が手を差し出してきた。子供ながらにこれは握手を求めていることは理解できたのだけど、さすがに大して知らない男の手を触るのはしたくなかった。

 ただ、前に国王を見かけた後にお母さんから、もし確実に目上の人から指示を出されたりした場合は逆らわない事、と言われていたので渋々その握手に応じた。もしかしたらお母さんはこう言う事が追々起こることを察していたのかもしれない。

 お母さんは何かにつけて、勘の良い人だったから強ち否定は出来ないのよね。


「あれ?」


 国王と握手をした瞬間、私は国王の魔力がおかしなことに気付いた。これが、国王がロイドと同じ症状だと最初に気付いた瞬間。ただし、この頃の私は今ほど魔力の流れを敏感に感じ取れる訳ではなかったので、あくまでも違和感を覚えたと言うだけなのだけどね。


「どうした?」

「魔力の感じが何かおかしい?」

「どう言うことだ」

「中と外の濃さが違う気がする」


 基本的に人が纏う魔力は体の内と外の濃度は同じになる。ただ、魔力放出障害の人は内の魔力濃度が高くなる傾向にある。その違和感を当時の私は感じ取ったと言うことね。この時は症状の名前も知らなかった上に、上手く伝えることが出来なかったから国王を混乱させるだけだったけど。


「そう言えば、家は近いのか?」


 国王は私が行っていることが理解できなかったのか、話を逸らすように別のことを聞いて来た。


「近い…です」

「そこには大人は居るか?」

「多分」

「なら、そこに案内してもらいたいのだが」

「……どうして?」

「最近、この森の様子がおかしいとの報告が上がっている。だからこの森の近くに住んでいる者なら理由を知っているかもしれないだろう」


 理由は理解した。ただ、どう判断して良いかまだ子供だった私はわからず、考えるのが億劫になって両親に丸投げにすることにした。と言うか、今更だけどそうして国王が直接私に話しかけていたのかしらね? 部下だって結構引き連れていたのに。


 そうして、私は国王一行を両親のもとに連れていくことになった。

 その後に魔力放出障害の存在をお母さんから教えてもらった。国王の保有魔力量の関係で私が国王の症状を治したことで、私が国王の息子として扱われていた王子と婚約する羽目になったのだ。


 王子と婚約するに当り、両親と国王の間で何かしらの取引があったと思うけど、私は直接関与していないし、知ろうとも思わなかったから未だに知らないのだけどね。今後も知りたいとは思わないだろうけど。



 公爵家に養子に入ったのは私が10歳になったころ。また、あの王子と正式に婚約したのもこのタイミングね。

 思い返せば、この頃はまだアイリは可愛げがあった。いきなりできた義姉に戸惑いながらも気にかけて来る様は可愛らしかった。まあ、大して時間が経たないうちに反抗的な態度に変わってしまったのだけど。……どうしてあんな風になってしまったのかしらね?


 正直、公爵家に養子に入ってからは周りから嫌味は言われるし、自由な時間は少ないしで結構ストレスを感じていたから、いい思い出何て碌に無いのよね。


 そうして、学校に通って、卒業して、あの場で婚約破棄を言い渡されて、契約が発動したと言う流れね。

 ああ、国王と契約を交わしたのは、公爵家に養子になって直ぐね。この時既にあの王子は私のことを嫌っていたし、公爵家の環境は悪いしで早々にホームシックになっていたの。それを我慢と言うか、心の支えにするために契約を交わしたと言ったところ。

 それが大正解だったのだから、当時の私にグッジョブ、と言いたいわね。


 それから、国を出てロイドに出会って、貴族になった。まあ、貴族になったのは不本意だけど。

 ただ、ロイドに会えたと言う、根本的な部分に居るのは国王だから、多少は感謝しているのよ。言葉にも態度にも出すつもりはないけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る