お仕置き?


「君…確かレイアだったか。模擬戦はギルド裏にある訓練場でやることになっているから、私に着いてくるように」


 着いてくるようにと言われて先導するギルド長の後に続こうとしたところで、いきなりギルド長が止まった。

 って、危なくぶつかる所だったじゃないの。


「っと。すまない先にやっておかなければいけないことを思い出した。すぐ戻るので少しだけ持っていてくれ」


 そう言ってギルド長は受付の奥の空間に消えて行った。

 まあ、さっきも騒ぎを聞きつけて出て来ただけだし、何かをやっている途中だった可能性はあるわね。でも、それだったらさっき受付嬢について行くように指示を出して欲しかった。既に受付嬢はここに居ないから今更無理だったのでしょうけどね。



「すまない。待たせた」


 数分も経たないうちにギルド長は戻って来た。同時にギルドの外に走って行った職員らしき人を見かけたけど、何か関係があるのかしらね。


 そうして私はギルド長に続いてギルド裏にある訓練場に向かった。



「遅かったじゃないですか。何をしていたんです? もしかして私が怖くてもたついていたのではないでしょうね?」

「いえ、それはないです」


 訓練場に着くなり受付嬢に挑発っぽいことを言われた。そんなことはあり得ないのできっぱりと否定する。


「私の都合で少し待ってもらっただけだ。それよりもシーアは訓練用の武器を使え」

「は? 嫌ですよ。そんな汚い物なんて触りたくはありません」

「普段から加減が出来ないのだから、最低限武器の性能は落とす」

「嫌です!」


 またこれか。面倒、と言うかもうどうでもいいのだけど。さっさと進めて欲しい。


「時間の無駄なので、武器は替えなくていいですよ。正直、そのやり取りは飽きました。さっさとしてください」

「いや、さすがにそれは…」

「問題ないです。それに何があっても自己責任、なのでしょう?」

「そうだが…」

「ほら! いいって言っているじゃないですか!」


 この受付嬢、さっきから受け答えがワンパターンね。…まあ、それは私にも言えることだけど。


「本当にいいのか?」

「ええ。あぁ、それと私も武器は持っているのでそれは不要です」


 なんか私にも訓練用の武器を渡そうとしていたギルド長に私はあらかじめ出していた武器、と言うか扇子を出して制止する。


 そう言えばこの扇子、公爵家に居た時に作ったやつなのだけど返さなくてよかったのかしら? いや、私用に作ったやつだから返したところで無意味なのだけど、返せって言われなかったから良いのかもしれないわね。


「そうか? ならわかった」


 そう言ってギルド長は手に持った魔法用の杖を近くにあった武器棚に片していた。


「では、模擬戦を始める。2人とも魔法がメインであるので開始位置は互いに10メートルは離れている事。…シーアもう少し離れろ。いくらレイアが良いと言ってもそれは認められない」


 明らかに10メートルよりも近い位置で始めようとしていた受付嬢がギルド長に注意された。さすがに駄目なことがわかっていたのか受付嬢は舌打ちしながらも、渋々私から距離を取った。


 うーん、態度が悪い。

 わかっていたことだけど、真っ向から闘おうとは一切思っていないわね。さっきの距離も明らかに不意打ち狙いだろうし。

 これは、まともにやり合わないで受付嬢の魔法は最初の2、3発受けてから後は一気に勝負を決めた方が良いわね。元からそのつもりだけど、一方的に負かす形でお仕置きと行きましょうか。


「それでは2人とも、準備は良いな。それでは…模擬戦始めっ!」


 ギルド長の合図とともに受付嬢が魔法を放ってきた。私は直ぐに動かないで受付嬢から放たれた魔法を観察する。


 発動までの速度、普通。攻撃速度、やや遅い。魔力量、少な目。密度、論外。うん。回避する必要もないわ。

 私は向かってきた魔法を持っていた扇子で叩き落とした。すると魔法は、ボヒュっと言った感じの音を立てて消えた。


「は? 何で私の魔法が叩かれただけで消えるのよ! ズルでもしているんじゃないでしょうね!」


 想定外にあっさり魔法を消されたのが気に食わなかったようで受付嬢が怒りをあらわにする。


「そんなことはする必要ないでしょう?」

「ふざけないでよっ!」


 そう言って怒りに任せ受付嬢はまた魔法を放ってきた。今回の魔法はさっきよりも魔力は多めだけど、他は変わらないわね。また同じように扇子で叩いて魔法を消す。


 もういいわね。最初は後1発受けるつもりだったけど、この程度ならその必要もないし。


 私は受付嬢に向かって魔法で空気を圧縮した物を飛ばした。


「はぁ? 何でそんな簡単そうに。やっぱりズルムギョバッ!?」


 放った魔法が受付嬢の顔面に当たって弾け、受付嬢を吹き飛ばした。声を出している時に当てたから変な感じで声が出ていたけど大丈夫かしら。さすがに怪我をさせるつもりはないのだけど。……あ、鼻血が出ているわね。


 ……まぁ、これぐらいなら怪我には入らないからいいかしらね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る