追放へ

 

「そこまでっ!」


 吹き飛んで行った受付嬢が起き上がったところでギルド長がそう宣言して模擬戦を終えた。

 どの段階で終わらせるつもりだったのかはわからないけど、たぶん挑戦者が試験官に攻撃を当てた段階、もしくは挑戦者が行動不能になったら終了と言った形だったのかもしれない。


「ちょっと待ちなさいよ! 私、まだ戦えるんだけど!?」

「シーア、お前は試験官だ。故にお前がまだ戦えるかどうかは関係ない」

「はぁああ!? じゃあ何? 負けたまま終わりってことなの!? ふざけるんじゃないわよ! 納得できないわ! どう考えても、あいつはズルしているでしょう」

「私が見ていた限り、不正はしていない」


 なるほど。このギルド長はしっかり魔力を確認できる程度には技術があるのか。もしかしたら、受付嬢の発言を否定するためだけに言っている可能性はあるけど、見る限りギルド長の纏う魔力はかなり整っているし、そんなこともなさそうね。

 受付嬢の纏っている魔力は乱雑で安定していないから、技術の差は歴然。これでよく貴族だと堂々と言えるわよね。口を動かすよりも先に努力しなさいと言いたくなるわね。


「そんな訳ないでしょう!? 私の魔法があんな簡単に…」

「あれは練度の差だ! 前から言っているがシーアの魔法は雑過ぎる! あれなら多少魔法を齧っている奴なら大抵同じようにできるものだ。それに、この模擬戦の判断をするのはあくまで私だ。お前がするものではない」

「試験官は私よ! だったら判断するのは私じゃないとおかしいでしょう!?」

「何度言えばわかるんだ!」


 またかぁ。本当に飽きないわね、この2人。と言うかこの受付嬢、さっきから叫び続けているけど喉大丈夫かしらね? あんなに怒声を上げ続けていたら喉を傷めると思うのだけど。喉が丈夫なのかしら?


「ギルド長。返事を貰ってきました」

「ん? ああ、すまない。思っていたよりも早かったが、大丈夫だったか?」

「特に問題は起きませんでした。もしかしたら、あちらもある程度は把握していたのかもしれません」

「…そうか」


 訓練場に入ってきた職員と短い会話をしてギルド長がそう返すと、その職員は直ぐに訓練場から姿を消した。

 あ、この職員さっきここに来る前に外に出て行った人だわ。返事、と言っていたけど何のかしらね。


「私を無視するんじゃないわよ!」

「シーア、黙れ」


 返事と言われた書類を受け取ったギルド長は中を確認すると、受付嬢に対して注意ではなく明確に指示を出した。


「何で私があんたの…」

「黙れと言ったはずだ!」

「ぐっ」

 

 今までなかったギルド長の低い声での指示に受付嬢は面食らったのか口を閉じた。


「先ほどお前の家に出した文書の返答が帰って来た。私は今までのシーアの行動で起きた不祥事や命令違反、被害を収めることにかかった費用の請求を行ったわけだが、帰って来た返答にはこうある」


 ギルド長はそう言って受付嬢の前に書類の内容が見えるように掲示した。


「『我が家系には、シーアと名のついた者はいない。故にその請求を受けることは出来ない。

 もし、我が家の者であると虚偽を示した者による不利益だったとするならば、その者がそれを補うのが筋である。

 また、そのような我が家の名を汚すような者を見つけたのならば、我が家に出頭するようにと伝えていただきたい。逃げるような者ならば縛ってでも連れて来ていただけるとありがたい』

 そう、この書類にはそう書かれている」


「…え? なん? 何で…嘘でしょう? これ…お父様筆跡、……これはどう…言うこと?」


 ギルド長から書類を渡された受付嬢は信じられない物を見るようなめでそれを確認していた。

 ああ、尻尾切か。庇いきれないとか請求額が大きすぎて払えないとかそう言うことだろうけど、思い切ったことをするわね。


 いえ、元よりそのつもりだったのかも? 貴族出身なのにギルドの受付嬢になっている段階で家から出されたと言う感じな気がするわ。


 ん? あ、そう言えば受付嬢が貴族かどうかははっきりしていないわよね? 一度も貴族だとは明言していないし。まあ話の流れからして、貴族なのでしょうけれど。


「それと、私はギルド長をしているがこれでも侯爵家の次期当主だ。お前が言っていた家は子爵家だろう? そこから考えても今までの発言は問題しかないな」

「……………え?」


 ちょっと、自分が所属しているギルドの長がどう言った人物かも知らなかったの? さすがに問題があり過ぎだと思うわ。ギルド長が自ら言わなかったのだとしても、こう言ったのって多少調べていれば気付くはずの情報よね?

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